かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
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「……それは、自然とつながったからですよ」

 妖精学者ダニールの見解としてはそういうことだった。ひとたび目覚めた妖精の血は、これからもマルーシャに力を与えるのだという。以前はたいして効かなかったおまじないも、今後取り扱い注意になる。
 宿の食堂で夕食をいただき部屋に戻る途中、ダニールは少し悲しそうだった。それをうっとうしげに見てイグナートがつぶやく。

「しつっこいな、こいつ」
「だってマルーシャさんの初めてのおまじないを見逃してしまった……」

 町の子どもたちと何があったのか聞いて以来、ずっとこう。マルーシャ本人もそろそろ、申し訳ないよりあきれてきていた。
 ダニールは、妖精の力に目覚めたマルーシャの記録を取りたかったのだ。それに失敗し研究者としてひどく落ち込んでいる。
 あの時駆けつけるのが遅れたのは、近くの革製品店に気をひかれていたイグナートのせいだった。そう恨みごとを言われてもイグナートは反省せず、面倒くさそうだ。

「何が起きたのかは教えてもらえたんだからいいだろ」
「見たかったんだよ! この目で! その力の発露を僕も感じたかったんだ!」
「うるせえな! おまえマルーシャちゃんの追っかけか!」
「……追っかけ?」

 言われた意味がわからなくてダニールが不審な顔になった。イグナートはここぞと友人の無知を笑ってやった。

「学問以外はほんとに物知らずだな。大好きな人のことを追いかけ回して、なんでも調べ上げる奴のことだよ」
「だいす……! いやそんな、そういうことじゃないぞ!」
「お父さまは、お母さまのこと大すきでいいの! わたしそれがいい!」

 かりそめの娘ミュシカが強引にその場をまとめてしまった。マルーシャにはダニールの職業的こだわりが理解しきれるわけではないが、いちおう謝罪する。

「勝手におまじないを使ってごめんなさい。また明日、練習しますから教えて下さいね」
「あ、いやあなたは悪くないので謝らないで下さい……すみません」
「ダニールさんも悪くないですよ」

 ふふ、とマルーシャは笑った。その笑顔は本当に春のよう。ダニールはハタとなって自分の振る舞いを振り返った。
 駄々っ子のようだった、と思う。なのに年下の女性に受けとめてもらったのではなかろうか? なんと情けない。

「それじゃ、今日はもう休みます」
「おう、慣れない旅でマルーシャちゃんお疲れだよな。ゆっくり眠りなよ」

 女性陣が部屋に引き取るのを見送って、ダニールは大いに反省した。


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