かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

マルーシャは勉強中

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 翌朝、ラーツの町を発った馬車の中には、またマルーシャとミュシカ、そしてダニールがそろっていた。
 昨夜のパジャマパーティーではしゃぎ過ぎ疲れたのか、ミュシカはまだ眠そうだ。マルーシャにもたれて幸せな顔をし、揺れに合わせてうとうとしている。

「眠ってもいいのよ。寝る子は育つだわ」
「うん……わたしおおきくなって、おまじない、うたう」

 とろとろしながらミュシカは言う。冬を告げる歌のことだろう。大人になってもきちんと役目をまっとうする気なのだ。

 背中をポンポンとして寝かしつけているマルーシャの微笑みを、ダニールは尊敬のまなざしで見た。
 子どもの世話とはこうやってするものなのか。いや、ラリサがやっているのはわかっていたが、すでに三人の子持ちのラリサとマルーシャでは違う。どうしてこんな優しい仕草が身についているのだろう。
 だがこれが大人として普通なのかもしれない。ダニールは研究以外何も知らない、とイグナートに言われるわけだ。

「マルーシャさんは、すごいですね……」
「はい?」

 思わずつぶやいたダニールに、マルーシャは疑問の視線を返した。声は、小さめで。

「……僕は、好きな学問をやるだけで他のことはからっきしですから。家業も弟に押しつけてしまいましたし、人としての能力が低い」
「そんな」

 否定しきれなくてマルーシャは困る。この会話すら、ただの自己分析であって世間話とは言いがたかった。
 この際さっさと妖精学教師としての能力を発揮してもらえばいいのか。マルーシャは、一番知りたいことを尋ねてみた。

「私が母から教わった歌は、〈春〉のものなんでしょうか」
「……だと思います。歌の第三節の部分が季節ごとに異なっているのですが。もしよければ、軽く歌ってみて下さい」
「おまじないとして効いたりしませんか?」
「危なければ僕が阻止します」

 さらりと言うダニールを信じることにする。すうすう寝息を立てるミュシカに目を落とし、マルーシャは小さく口ずさんだ。

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