かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

 今日の日に幸あれ(ユーデル セ ドーニア)
 風が我らを守り(ヴィーテル バルミーナス)

 光が我らを導く(ジェリク リベラーナス)
 大地はとこしえなり(ゼーニャ ナブセージェス)

 春は 生み育てる(ヴェーナ、テルビエーテ)
 命を言祝ぎて(ユーミルディ ツェーレ)

 季節の恵みに(グラーディス テ コン ブレーナ)
 心よりの感謝を(ブラーゴス エ ポーシェ)


「正しく伝えています。〈春〉の歌ですね」

 ダニールはうなずいた。小声でも伝わるマルーシャのかすかな力に研究者としての興味をそそられた。
 だが、まるい響きの歌声が心地よくて仕事中なのに笑んでしまう。ダニールにしては珍しいことだった。

「やっぱりそうなんだ……お母さんの歌ですものね」

 ファロニアを出たアレーシャは、何を思ってこれを娘に歌い聞かせたのだろう。
 娘が春に愛された妖精となることを知っていたのか。それともただ、妖精の国と春という季節を愛していたのかもしれない。

「でもどうして歌うんですか? おまじないは唱えるだけなのに」
「この歌もおまじないの一種には違いありません。旋律の効果を加えることで大きな波動を生み出すんです。言葉は物事の本質を把握するものですね? それを声と音階で表し、音律と成す。歌はとても効果があります。儀礼に用いるものとして特別に発達したのでしょう」

 軽い気持ちで訊いたことにスラスラと解説が返ってきてマルーシャは目が点になった。

「……ちょっと、難しいです」
「そう……ですか。申し訳ない」
「いえ、私には耳慣れない言葉づかいなだけですよ、きっと」

 サラリと気づかわれ、やはりマルーシャはすごいなとダニールはへこんだ。

< 55 / 144 >

この作品をシェア

pagetop