かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
立ち上がって野原に出ると、植生を見ながら「このあたりで」とダニールに示された。そしてマルーシャのすぐ斜め後ろにダニールも立つ。
え。
気配の近さに心臓が跳ねて振り向いたら、真剣にうなずかれた。たぶんこれが「待機」。マルーシャの失敗にそなえているのだろう。
――だが、距離感。
照れもしないダニールは研究のことしか考えていなかった。その点ブレない男なのだ。見守っているラリサとイグナートの方は、動揺するマルーシャに同情しかない。
「おまじないは覚えていますか?」
「は、はい」
ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ。
マルーシャは心の中でつぶやいた。
「今回はマルーシャさんだけなので、力がぶつかったりしません。静かに種を包んで育ててみましょう」
「は、い」
軽くかがまれたら、吐息が耳にかかった。どんどん集中力がなくなっていく。
マルーシャはもう一度背後をチラリとしてみて、間近な黒い瞳に悲鳴を上げたくなった。ダニールは人間全般に対して経験値が足りないらしいが、マルーシャだって男性との経験値はないのに!
「落ち着いて」
ダニールにも焦りが伝わったらしい。でもそれをおまじないへの緊張からだと解釈して教師の顔で励まされ――恥ずかしさにマルーシャは開き直った。もうヤケだ!
「――いきます!」
背中に意識を向けない! 前しか見ない!
目を閉じて、土の中を見た。
いのちの在りかを探す。
種ではなく、眠る根がそこにあるのがわかった。宿根草だ。
すくい上げ、言いきかせる。
「ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ」
スウと力が土中にしみこんだ。
マルーシャの心は波立たない。つかまえたいのちたちに向けてはたらく。
ぽこぽこ。しゅるしゅる。
伸びた新芽が、葉をしげらせ花開く。
丸い花弁をつらねたそれは、白と黄のリュウキンカ。背の低い、小さな花がいくつも咲いた。
「――でき、た」
小さくマルーシャはつぶやいた。自分で見ていても信じられない。不思議な光景。
離れて見守っていたミュシカが歓声をあげた。イグナートもラリサも息をのみ、拍手する。そして頭の上からは興奮に震えるささやきが降ってきた。
「やった――」
不意打ちの近すぎる声にマルーシャはビクリとした。振り向くとガシリと両手を取られた。大きな骨ばった手に包まれてブンブン祝福される。
「あの、えっと。ダニールさん?」
「僕は何も手を出しませんでした。あなたの力だ」
それはなんとなくわかった。ダニールはただ後ろにいて、万一に備えてくれただけ。そして生徒の成果に勝手に感極まっているのだ。
この人って。この人って!
咲かせた花よりもダニールに困惑し、マルーシャは立ちつくした。
え。
気配の近さに心臓が跳ねて振り向いたら、真剣にうなずかれた。たぶんこれが「待機」。マルーシャの失敗にそなえているのだろう。
――だが、距離感。
照れもしないダニールは研究のことしか考えていなかった。その点ブレない男なのだ。見守っているラリサとイグナートの方は、動揺するマルーシャに同情しかない。
「おまじないは覚えていますか?」
「は、はい」
ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ。
マルーシャは心の中でつぶやいた。
「今回はマルーシャさんだけなので、力がぶつかったりしません。静かに種を包んで育ててみましょう」
「は、い」
軽くかがまれたら、吐息が耳にかかった。どんどん集中力がなくなっていく。
マルーシャはもう一度背後をチラリとしてみて、間近な黒い瞳に悲鳴を上げたくなった。ダニールは人間全般に対して経験値が足りないらしいが、マルーシャだって男性との経験値はないのに!
「落ち着いて」
ダニールにも焦りが伝わったらしい。でもそれをおまじないへの緊張からだと解釈して教師の顔で励まされ――恥ずかしさにマルーシャは開き直った。もうヤケだ!
「――いきます!」
背中に意識を向けない! 前しか見ない!
目を閉じて、土の中を見た。
いのちの在りかを探す。
種ではなく、眠る根がそこにあるのがわかった。宿根草だ。
すくい上げ、言いきかせる。
「ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ」
スウと力が土中にしみこんだ。
マルーシャの心は波立たない。つかまえたいのちたちに向けてはたらく。
ぽこぽこ。しゅるしゅる。
伸びた新芽が、葉をしげらせ花開く。
丸い花弁をつらねたそれは、白と黄のリュウキンカ。背の低い、小さな花がいくつも咲いた。
「――でき、た」
小さくマルーシャはつぶやいた。自分で見ていても信じられない。不思議な光景。
離れて見守っていたミュシカが歓声をあげた。イグナートもラリサも息をのみ、拍手する。そして頭の上からは興奮に震えるささやきが降ってきた。
「やった――」
不意打ちの近すぎる声にマルーシャはビクリとした。振り向くとガシリと両手を取られた。大きな骨ばった手に包まれてブンブン祝福される。
「あの、えっと。ダニールさん?」
「僕は何も手を出しませんでした。あなたの力だ」
それはなんとなくわかった。ダニールはただ後ろにいて、万一に備えてくれただけ。そして生徒の成果に勝手に感極まっているのだ。
この人って。この人って!
咲かせた花よりもダニールに困惑し、マルーシャは立ちつくした。