かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「悲しいのねミュシカ……事件はいつのことですか?」
「二十日ほど経ちます。家にいるより気がまぎれるかとミュシカも一緒に」

 孫娘を気づかった侯爵から、連れて行くよう指示されたのだそう。
 だがダニールが指名されたのには他にも理由があった。妖精学者としての用件なのだという。

「ファロニアで新しい〈春告(はるつ)げの姫〉が生まれていないのです」
「え、アレーシャが亡くなってもかい?」
「はい。なのでもしや、アレーシャさんの娘が祝福を継いでいるのではと」
「マルーシャの半分は人なんだが」

 またわからないことを言われてマルーシャは眉間を押さえた。

「春告げ……?」
「すみません、説明します。ファロニアには〈四季を告げる姫〉という者がいまして。アレーシャさんは、その〈春〉の後継者でした」

 ダニールはかみ砕くように話してくれた。

「妖精は自然の力とつながる存在なんです」
「自然の……」
「そう。中でも大きな存在が、四季の姫です。それぞれの季節と絆を結んだ姫たちはその始まりと終わりを告げ、それにより季節はあるべき姿でやってきます」

 春告げの姫が呼ぶことで、春は春となる。
 薫る風と光に満ち、やわらかな雨をもたらし、新しい命の誕生をことほぎ。
 そうあれかし、と春の力を引き出すのが春告げの姫なのだ。

「――すてき」

 マルーシャはつぶやいた。
 そう聞いただけで春の喜びが体によみがえる気がした。これから秋という今なのに。

「今の春告げ姫はもうお歳で引退を考えています。でも跡を継ぐべき者が見つからなくて」

 妖精族の伝統を守るべく、ダニールは力を尽くしているらしい。

「本来これは血筋に左右されるものではないはずですが、ファロニアに後継者たる春の(いと)し子が現れない。なのでもしかしたらアレーシャさんの娘がそうなんじゃないかと」
「愛し子――」

 自分がそんなものだとは思えなくて、マルーシャは目を伏せた。その様子を観察しながらダニールは訴えた。

「あなたが春の姫なのかどうか。その力を見きわめるためにも、ファロニアへ招きたいのです」

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