かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

 マルーシャが〈春〉ならばと言われ、クリフトのまなざしが揺れた。

「――きみは妖精学者だ。その目から見て、この子はどうかな」
「可能性はありますが、まだなんとも。屋内でしか拝見していないですし」
「どういうことだい?」
「できれば外の、光や風のあふれる環境に出てほしいです。可能なら郊外に。町の中は緑が少なくて妖精族の力は弱まります。環境をととのえたことでマルーシャさんが妖精として目ざめるようであれば、とても興味深い事例になるのですが」

 専門分野を語るからか熱心につらつら話しはじめるダニールとは逆に、クリフトは鼻にしわを寄せた。

「あのさ、マルーシャは研究サンプルか何かかい?」
「あ、いえ。そういうつもりでは」
「いいや、そういうつもりに聞こえたよ。そんな言われ方すると不愉快だ。君にとっては〈興味深い事例〉とやらにすぎないんだろうけど、マルーシャはうちの大事な娘なんだからね!」

 クリフトが珍しく声を荒らげて、マルーシャはあわてた。遠くから訪ねてくれた人に失礼じゃないか。

「ちょっと、お父さん。いいでしょ、それがダニールさんのお仕事なんだから」
「仕事だからってね、愛がなきゃダメだよ! 僕はいつだって時計に愛をそそいでるだろ?」
「お父さんは、そそぎ過ぎなの! 妙なカラクリ時計ばっかり作って!」
「だって、だってさあ! マルーシャがファロニアに行っちゃったら、僕はどうすればいいんだよう」

 クリフトが泣き声になってきて、マルーシャは目をつぶった。これは――。

「すみませんダニールさん、父は駄々こねてるだけですから」

 ため息が出てしまう。
 クリフトは、愛する妻の忘れ形見であるマルーシャのことが大好きだ。普段は面倒をかけられっぱなしだが、父の愛を疑ったことはない。
 その一人娘が母の故郷へ旅立つかもと考えて寂しくなっただけなのだ、きっと。

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