かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 ポツリ。ポツポツ。
 パルバの町に入る直前、予想通り雨が降りはじめた。

「あと少しだったのに」

 マルーシャは膝掛けを二人分出した。
 見る間に強まる雨足が、布に当たるとサラサラと表面を流れ落ちていく。これは便利だ。

 すぐに石畳の通りにたどり着いたが、町はどんより暗かった。外仕事の人々がいまいましげに片付けに追われている。

「おいダニール、やばい雨になったな。行きに泊まった宿にするか?」
「ああ」

 小窓越しに車内のイグナートと話したダニールは手綱をあやつる。町の中で速度を上げるわけにもいかずゴトゴトと進んだ。

 カッ!
 空に光が走った。

「やあんッ!」

 ミュシカの泣き声が外まで響いた。雷鳴がとどろく。それとかぶるように、近くで太い悲鳴が聞こえた気がした。
 ダンッ、バキバキッ!
 ダニールは手綱を引き馬車を停めた。

「屋根から人が落ちたか?」
「ですよね……でも誰も出てこない」

 派手に落ちたはずだが、物音が雷鳴にかき消されたのだろうか。マルーシャは馭者台から飛び降りた。

「マルーシャさん!」
「助けなきゃ」

 止める間もない。ダニールも慌てて追った。
 人が転落したのは目の前のパン屋の屋根からのようだ。横の薪小屋の屋根がひしゃげている。
 店の入り口へと走るマルーシャがどんどん濡れていき、ダニールは急いで唱えた。

オシュ アン ボルシス(水よ去れ)!」
「すみません! 屋根で仕事している人がいませんでしたか!」

 おまじないをかけられたことには気づいただろうか。振り向きもせずマルーシャはパン屋の戸を開け声をかけた。
 泡をくって出てきた店の人々により、薪小屋から屋根修理の男が助け出される。怪我はしているが生きていた。マルーシャとダニールは安堵して馬車に戻りかけたのだが、そこで店主が叫んだ。

「薪が濡れちまった! 明日のパンが焼けないぞ!」

 従業員たちが凍りつくのがマルーシャにもわかった。
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