かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
薪がやられては商売にならない。下の方の無事なものを、店の者が集まって取り出しにかかった。だが作業するその上にも雨は無情に叩きつけている。
あ、と思いついてマルーシャはそちらに近づいた。
「オシュ アン ボルシス」
静かに手をのべ小声で唱える。
するとおまじないがフワリと薪小屋を包んだ。
「――!」
なんてことだ、きれいに成功している。
ダニールは一瞬迷った。人がおまじないに気づいてはまずいし解いてしまおうか。
だがすでに薪の表面はずぶ濡れなのだし、働く人々も同様。たぶんバレやしない。せっかくのマルーシャのおまじないをないがしろにしたくなかった。このままにしておくか。
そのマルーシャは、試してみた雨よけが成功し立ち尽くした。
できた。三種類めの、おまじない。
喜びに瞳を揺らすマルーシャの肩に、近づいたダニールが自分の上着を着せかけた。おまじないの前に濡れたぶんはどうしようもなくて、髪からもポタポタと水が垂れている。
「あ、ダニールさん……」
「早く、馬車に。宿はすぐそこです」
ダニールの眉間にしわが寄っていることに気づいてマルーシャはハッとなった。
「ごめんなさい、あなたまでびしょ濡れ」
「……僕はいいです」
ぶっきらぼうに言われ、とにかく馬車に戻る。
馬車を出してもダニールがこちらを見てくれなくてマルーシャは不安にかられた。勝手をしすぎただろうか。飛び出したことも、おまじないを一人でやってみたことも。