かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 そして雨のやんだ翌朝、マルーシャは熱を出していた。
 目覚めた時にフワフワした気分だなと思ったら、立ち上がってよろけた。寝台に座ってしまい、慌てたラリサに額を確かめられる。

「……熱だわ。今日は動かない方がいいわね、イグナートに伝えてくる」
「え、でも」
「道中で悪化したらどうするの」

 軽い風邪だと思う。それならなおさら、さっさと治せばいいのだ。
 きっと疲れたのね、とラリサは微笑み、マルーシャをふとんに押し込んだ。
 言われてみれば無理もない。ダニールが時計工房を訪れてからというもの、人生に怒涛の変化があった。心身ともに翻弄され、さらに雨に濡れたことでドッときたのだろう。つまりとどめを刺したのは自分ということになるのが情けない。

「じゃあ、頑張って治すから」
「頑張らなくていいの」

 めっ、と腰に手をあてるラリサは頼れる母の顔だった。


 休養することになったマルーシャは、ミュシカに風邪をうつしていないか心配した。
 でもミュシカはケロッと元気いっぱい。うるさくされても困るので、ラリサとイグナートが預かって雨上がりのパルバの町にお出かけしている。

「……マルーシャさん、具合はどうですか」

 うつらうつらしていたら扉が遠慮がちにノックされた。宿に残っていたダニールだ。廊下から扉越しに声をかけてくる。

「少し食べられますか。宿のおかみさんがパン粥を作ってくれたので」
「あ……ありがとうございます」

 寝ぼけたマルーシャの応答が心もとなかったのだろうか、慌てた声がした。

「無理に起きなくていいんですよ」
「いえ……」

 寝台から足を下ろしてみたら、しっかり歩けた。回復してきたかもしれない。

「動けそうです……あ、でも私、寝間着だった」
「え。失敬、そうですよね」

 ダニールがうろたえたのだろう、廊下でカチャンと食器が音を立てる。でもマルーシャが鍵を開けないと、盆を渡すこともできなかった。

「あの、扉ちょっとだけ開けるので」
「なるほど。食事だけ渡します、けして見ませんから!」

 ギクシャクと言うダニールの反応に笑いをかみ殺しなから、マルーシャは扉の陰から手だけを出した。
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