かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
そこにそっと盆が差し出される。受け取ったパン粥はホカホカと湯気を立てていた。
「はしたない格好ですみません」
「いえ。しっかり休んで下さい。無理をさせて申し訳ありませんでした」
「私こそ足留めしてしまって。今日ダニールさん、つまらないですよね」
眠っているマルーシャとは違い、一人で暇を持て余しているのでは。そう心配したのだが、部屋の机で書き物ができるからちょうど良いと言われた。そういえば学者なのだった。
「マルーシャさんの記録を作成しています」
「私?」
「妖精の力が発現した瞬間から立ち会うなんて、大人ではなかなかないことなので。この短時間で初歩も応用もこなしてみせて、あなたの成長には興味が尽きませんよ」
「あ……そう、ですか」
とても微妙な気分になった。私はやはり研究対象なのか。そういうことを平然と言ってしまうから駄目なんだとイグナートやラリサなら叱るかもしれない。
「まあ、どこにも出せない研究ですが」
「どうしてですか?」
「だってあなたは〈春〉です。秘密の存在だ」
「……まだ違います」
「たぶんそうなりますよ」
扉の向こうで姿は見えないが、ダニールは嬉しげに目を輝かせているのだと思った。発表できない調査なのに、取り組むだけで楽しい。そういう人なのだ。
でも〈春告げの姫〉だなんて。母と同じ祝福を受けているのは嬉しいし誇らしいけど、父が案じるのもわかる気はした。
「……私が〈春告げ〉になったら、毎年どうすればいいんでしょう」
「それは――すみません、できるだけあなたの負担にならない方法を考えます」
ダニールは真剣な声色になって断言した。この人が言うならきっと大丈夫。マルーシャはそう思った。
だってダニールは不器用だけど、頼りがいがある人だとわかっているから。
「はしたない格好ですみません」
「いえ。しっかり休んで下さい。無理をさせて申し訳ありませんでした」
「私こそ足留めしてしまって。今日ダニールさん、つまらないですよね」
眠っているマルーシャとは違い、一人で暇を持て余しているのでは。そう心配したのだが、部屋の机で書き物ができるからちょうど良いと言われた。そういえば学者なのだった。
「マルーシャさんの記録を作成しています」
「私?」
「妖精の力が発現した瞬間から立ち会うなんて、大人ではなかなかないことなので。この短時間で初歩も応用もこなしてみせて、あなたの成長には興味が尽きませんよ」
「あ……そう、ですか」
とても微妙な気分になった。私はやはり研究対象なのか。そういうことを平然と言ってしまうから駄目なんだとイグナートやラリサなら叱るかもしれない。
「まあ、どこにも出せない研究ですが」
「どうしてですか?」
「だってあなたは〈春〉です。秘密の存在だ」
「……まだ違います」
「たぶんそうなりますよ」
扉の向こうで姿は見えないが、ダニールは嬉しげに目を輝かせているのだと思った。発表できない調査なのに、取り組むだけで楽しい。そういう人なのだ。
でも〈春告げの姫〉だなんて。母と同じ祝福を受けているのは嬉しいし誇らしいけど、父が案じるのもわかる気はした。
「……私が〈春告げ〉になったら、毎年どうすればいいんでしょう」
「それは――すみません、できるだけあなたの負担にならない方法を考えます」
ダニールは真剣な声色になって断言した。この人が言うならきっと大丈夫。マルーシャはそう思った。
だってダニールは不器用だけど、頼りがいがある人だとわかっているから。