かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~

 ダニールが留守番していた部屋の戸が叩かれたのは、それからしばらくした時だ。帰ってきたミュシカがダニールに飛びつく。

「お父さま、ただいま!」
「おかえりミュシカ」
「お留守番ありがと。マルーシャはどう?」

 訊いてはみたが、ラリサも返事は期待していなかった。女性の様子を見に行くわけもないのだし。

「昼食を届けたら起きてくれたよ。扉越しに話した感じでは、しっかりしていた」
「あら。じゃあ一日休めば平気かしらね」
「食べられたかどうかは見ていないぞ」
「のぞきは禁止よ」

 ラリサは意地悪く笑う。フイとそっぽを向いてしまうダニールがやや照れたように見えて、おや、となった

「お母さま、げんきになる?」

 不安げなミュシカの手には小箱がある。町で買ってきたお見舞いだそうだ。

「あのね、さとうづけ。くだものとか」

 馬車の中で疲れた時に甘い物を口にできるよう考えたらしい。なるほど、ミュシカはしっかりしていると感心した。ダニールではそんなこと思いつかない。

「じゃあ静かに様子をみておいで。起きていたらお見舞いを渡すといい」
「お父さまは?」
「女性が寝てる部屋に行けるわけないだろう」

 やや厳しい顔をして、ダニールは机に向き直ってしまった。そんな風にされるとマルーシャと何かあったかと思うじゃないか。ラリサはワクワクと目を輝かせたし、イグナートも低く笑う。

「そりゃあダニールは紳士だから。失礼なことはしないよなあ?」
「でも食事は届けたのよねえ?」

 夫婦が笑い含みの声でからかうとムスッとしながらにらまれる。吹き出すのをこらえながらラリサはミュシカを連れて出ていった。
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