かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 見送ったイグナートは声をひそめ問い詰めた。

「ほんとに、何かしたのか」
「そんなわけないだろう!」
「じゃ、なんで照れてんだよ」

 ガタ、と向かいに座りイグナートは脚を組む。腰を据えて話す体勢だ。観念したのかダニールはゴニョゴニョ言った。

「……寝間着姿だと言われたんで、扉を挟んでやり取りしただけだ」
「うん……? うっかりチラ見したのか」
「違う。まあ……お盆を取るのに腕は見えたけど」
「腕」

 イグナートは首をかしげる。それがどうした。

「だって細かったんだ。袖から出た手首が」
「そりゃ女の子だもんよ」

 そういうことか。ニヤつくのを抑え、イグナートは初心な友人の目覚めを後押ししようと思った。
 小さいもの、弱いものに心を掛けるダニールのことだ、マルーシャの愛らしさに気づけば惚れるかもしれない!

「あの細腕で、あんなにたくましいなんて……」
「はん?」
「いやマルーシャさんは暮らしを切り回し、クリフトさんの仕事を助け、しかもおまじないも上手いんだぞ。尊敬しかないな」

 ダニールがしみじみ腕を組んで、イグナートは絶望した。こいつの感性がわからない。
 仕方ないので話を変えることにした。町で重要な情報を仕入れてきたのだった。

「キナ臭い話を聞いたんだよ」
「――どんなだ?」
「小麦なんだがな」

 どうも値上がりしているらしい。
 クローシュ公国全体ではなく、このパルバの町だけかもしれない。どうやら隣国バルテリスで買い集める商人がおり、そちらにやや高値で売れるとみて流出してしまったようだ。

「小麦――?」

 基本となる食糧だ。買い占めて投機的に利用することもできる。
 だがそのためにはどこかで需給が逼迫しなければ売りさばけないはずだ。その読みはどこからきたのか不審に感じた。普通に考えれば小麦の動きなど限られる。

「戦争への備え、あるいはそれを嗅ぎつけた民間の勝手な動き」
「バルテリスでそれは」

 少々やっかいな事態になる。ダニールは眉根を寄せた。
 バルテリスはマルーシャの暮らすこの国とファロニアの間にある。この近辺では力のある王国だ。それがどこと事を構えようというのだろう。

「だが俺が疑ったのは、〈冬〉だ」

 そう言ったイグナートは目を細めて考える顔だった。
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