かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 これは彼らがボソボソ打ち合わせた末のことだった。ダニールは鈍くてどうしようもないので、まずはマルーシャの方を焚きつける作戦に出たのだった。
 男性に免疫のないマルーシャは物理的な距離が近いだけでもうろたえる。それは花を咲かせるおまじないの件で実証済みだ。後ろに立たれただけで焦っていたのだから、こうして追い込みダニールを男性として意識させればいい。

「美味しいかなー。ミュシカが選んだんだもんなー」
「おいイグナート」
「いいからダニールは口開けてなさい」

 無慈悲な友人夫婦にピシャリと言われダニールは何も言えなくなった。あまり拒否するのもマルーシャに失礼なのだろうか。世間の常識にはとんと自信がない。
 マルーシャもこうなると退けなくなった。オロオロしながらさくらんぼを一粒つまみ、遠慮がちにダニールの口に持っていく。

「……どうぞ」
「あ、はい」

 照れくさそうに小さく開けた口に押しこむと、指先が唇にかすってしまった。マルーシャの心臓はバクバクし始める。

「……甘いですよ」
「お母さまもたべて!」

 思考力が麻痺したマルーシャは、喜ぶミュシカの言う通りにアンゼリカを食べてみた。甘い中にもほろ苦く、さわやかな香りが広がる。美味しい、と微笑みかけたけど、そこで気がついた。
 ダニールに渡したのと同じ指で、自分も食べてしまったじゃないか!

「あ、えっと……甘いしスッキリする。とっても元気になるわね。ありがとうミュシカ」
「えへへ、どういたしまして!」

 動揺を押し隠すマルーシャだったが、どう見ても挙動不審だった。



「――もうそろそろ、バルテリスの領域ですね」

 しばらく無言で馬車を走らせていたダニールが周囲に目をやった。あたりは何もない野原だ。

「国境はハッキリしていないんですか」
「田舎はそんなものです。住人にはわかっていますし」
「……あの、往来が多い道を通った方が安全じゃないでしょうか」

 マルーシャは思っていた懸念を伝えてみた。
 強盗の心配もある。そして何より誘拐犯に〈冬告げの姫〉はミュシカの方だと知られてしまったら、襲われるかもしれないじゃないか。遠回りでも危険を避けるべきなのでは。
 だがダニールは肩をすくめた。

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