かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
バルテリス王国に入って最初の町、コルニクはこじんまりしていた。宿も一軒しかなく、それなのに混んでもいない。また二部屋押さえ、荷物を運びこんだ。
「さあて、じゃあ俺はぶらぶら情報収集してくるわ」
イグナートは気軽な調子で宣言した。前の町で聞いた、小麦の買い占めについて調べるつもりだった。
それがルスランとリージヤ夫婦を探してのことだとマルーシャも説明されていたが、ミュシカ本人には伏せてある。首尾よく手がかりに当たればいいが、そう上手くいくまい。期待させるのは酷というものだ。
「気をつけてな」
「おう。雇い主の愚痴でも言い散らかすとしよう」
ダニールの胸をつついてイグナートがニヤリとする。旅の主人とその護衛、という設定らしい。
酒場に行き、愚痴りながら世間話をするだけでいろいろなものが見えてくる。だがこの役目はダニールにはできないのだった。おもに会話力の問題で。
「あんまり飲むんじゃないわよ」
「飲まねえよ。こんな小さな町だ、たいしたこともわからんだろ。すぐ戻る」
夫婦の会話をながめ、ちょこんと首をかしげたのはミュシカだった。
「ラリサ、べつのおへやするの?」
「うん? ああ、戻るってのは、この宿にってこと。ラリサはミュシカと一緒でいいぜ」
イグナートは笑ってミュシカの頭をくしゃくしゃとなでる。
マルーシャを加えるまでの旅路では、ダニールとミュシカを一部屋にして夫婦で泊まったこともある。それを思い出したのだろう。でもミュシカは無邪気に言い放った。
「わたしお母さまがいればいい。それで、お父さまもいっしょにねる!」
さすがに大人たちが動きをとめた。
一緒に寝よう、というのは無理がある。いくら「お父さま、お母さま」と呼ばれていても夫婦ではないし恋人ですらないのだ。
マルーシャはボン、と赤面した。同じ寝台にミュシカを挟んで三人並んだところを考えてしまったのだ。なんという想像。はしたないにもほどがある。慌てて否定した。
「ミュシカ、それは駄目なの」
「なんで?」
「なんで……ってねえ」
子どもになんと説明すればいいのかわからなくなり、マルーシャの脳みそは空転した。するとラリサが大笑いする。
「それはねえ……今夜は女子会だからよ!」
「は? ラリサ何を」
「いいからマルーシャも参加! さあイグナートは行ってらっしゃい。私らは宿で夕食をいただきましょう」