かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「もちろん根は詰めません。今日はひとつだけ。たとえば前に言ってた、おまじないを解くおまじないとかどうですか?」
「どうして、それを?」
「誘拐事件の時って、ダニールさんの〈シェイディ コン ブラーデレ(持ち主へ導け)〉が解かれたんですよね。おまじないの上手い犯人ってことなら、逆にこっちから邪魔されたらプライドが傷つくんじゃないかと思って!」

 にっこりするマルーシャの笑顔は輝いている。真っ直ぐなまなざしにダニールはぽかんとし――そしてうっかり吹き出した。なんて強い人なんだろう。
 いきなりの笑顔にドキドキしたが、マルーシャは好戦的すぎたかと後悔した。

「……駄目ですか」
「いいえ。とてもいい考え方だと思います。あなたもミュシカを守ってくれるのならありがたい」
「じゃあ」
ショズデーレ、カテナ ヨルダテーバ(言葉よ力を喪え)

 唐突につぶやかれたおまじないにマルーシャは目を見開いた。

「ショ、デー?」
「ショズデーレ」

 ダニールは一言ずつ意味も教える。文言は短いが、それは簡単なおまじないではなかった。
 なぜなら〈言葉〉という曖昧な対象を明確に把握し働きかけなければならないからだ。鋭い感覚と柔らかい心が必要なのだった。

ショズデーレ、カテナ ヨルダテーバ(言葉よ力を喪え)

 マルーシャは小さくつぶやく。そこに行き場はないが揺らぎ(・・・)が起こるのを感じ、ダニールは震えた。なんという才能だろう。
 マルーシャ自身も体に何かが流れ、あふれかけたのがわかった。周りに影響していないか不安になり、すがりつく視線をダニールに向けてしまう。ダニールはすっかり学者の顔になりうなずいた。

「大丈夫――お互い抑え気味でやってみましょう」
「やってみる? お互い?」
「僕のおまじないを打ち消して下さい」

 言うとダニールは部屋の隅にマルーシャを手招いた。やや暗いその一角で向き合って立ち、ダニールは手のひらを上に向ける。

「僕の言葉をとらえて。起こる現象じゃなく、言葉を、です」

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