かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 ダニールの言葉はきっと、業務上の懸念を述べただけ。マルーシャをファロニアへ連れていくのがダニールの仕事なのだから。
 ラリサにいたっては少々怒っている。さっき二人で話していたのは、交際を申し込まれたわけでもなんでもないと報告されていたからだ。
 ほんのりした想いを抱えるマルーシャに対して、この言い方はひどい。無自覚だから傷つけていいというものではないのだ。ややうつむきながらマルーシャは無理やり笑った。

「お守りは、ありがたくいただきます……ミュシカと同じ、ペンダントですか?」
「そうですね。マルーシャさんの邪魔にならない物で」
「いっそ指輪にでもしなさいよ。かりそめの夫婦なんだから」

 苛立ちをこめてラリサが言うと、ダニールはムッとして反論した。

「そんなわけにはいかないよ。マルーシャさんが僕のものみたいな」
「ああら、いいのよ。マルーシャを奪い去るなら、クリフトさんには口添えしてあげる」
「……僕なんかじゃ、怒られる。他のご縁を邪魔するのは……」

 ダニールは一瞬ためらってから言った。思考が心の内に沈んでいき、表情が失せた。

 ――さっき思ったのではなかったか。マルーシャを失いたくないと。
 マルーシャがベルドニッツに帰ったら。
 あるいはダニールの知らない男性と結婚し会えなくなったら。
 それは「失った」も同義じゃないのか?
 いつも春のように笑っていてくれるマルーシャ。あらためて目をやると、返ってくるまなざしが陽光にきらめいていて、その瞳がもうお守り石そのもののよう。
 ――そんな風に感じた自分にダニールは愕然とした。

 

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