面識のなかった同級生と名前のない関係になったら、隙間なく重なる相性で離れられなくなった
第十二話:俺とみたいに、毎週末、寝てた?
真夏のビアガーデンで、高校の同窓会が始まった。
さっきまで俺の部屋にいたけれど、別々に出かけた高梨は、先に到着していた。
例の元彼は不参加ということで、安心して参加することにしたらしい。
元クラスメイトとかなのか、知らない男と盛り上がっている姿を遠目に見る。
(……腕、出すぎじゃね?)
たしか俺の家を出るときは、上に何か羽織っていたはずだ。
容赦なく照りつける太陽の下、白くて細い腕が露わになっている。
俺は、あの感触を知っている。
それが今、他の男たちの目の前で無防備に晒されていることに、妙な苛立ちを覚えた。
「芦田くん、ほんと久しぶりー! 仕事は何してるの?」
「……エンジニアだね」
俺が卒業後も関わりを持っているのは、三年のクラスの男子たちと、陸上部の一部くらいだ。
だから、今日いる連中のほとんどは、卒業以来初めて会う顔。
名前や呼び方も、正直はっきりと覚えておらず、無難な会話でやり過ごしていた。
ふと、後ろのテーブルの会話が聞こえてくる。
そこには、高梨がいた。
「なあ! 河合とは続いてんの? そろそろ結婚すんの?」
高梨が元彼が続いていると勘違いしている男の声。
――『そろそろ結婚すんの?』か。
周りからそう言われるほどの関係値だったことを知る。
「あ、えーっと……別れたんだよね、最近」
「えっ!? マジ!? ずっと仲良かったのに、なんで!?」
大声で驚かれている。
俺はクラスも違ったから、二人の付き合いの深さを知らないし、元彼のことは正直、顔すらまともに認識できていない。
(……へえ)
俺とみたいに、毎週末会ってた?
毎週末、寝てた?
胸の奥が黒いもので染まっていくのがわかった。
◇
不快感を誤魔化すように輪を抜けて、トイレに向かおうとした廊下で、彼女と出くわした。
苛立ちを抑えきれず、つい柔らかい二の腕に触れてしまった。
「……ちょ、ちょっと。誰か来るかもよ……!?」
恥じらいながら戸惑う彼女に、少し満足する。
この関係を隠すことが、急にどうでもよくなってしまった。
そうしていたら、本当に見られてしまった。
「……おまえら。もしかして、デキてる?」
よりによって、藤崎に。
「…………」
「あ、うん」
平然と答える。
限界まで目を見開いた高梨が、勢いよくこちらを向く。
焦る彼女を、目配せで会場へ戻らせた。
俺は、フリーズする藤崎の首根っこを掴み、トイレの洗面所に連れ込んだ。
「え、マジなの?」
「…………」
「付き合ってるん?」
興奮気味に尋ねられる。
まさかここで「三か月前から身体だけの関係」などと言うわけにもいかず、息を吐いた。
「……いい感じだから、邪魔すんな」
「? アプローチ中ってこと?」
「まあ、そんなところ」
適当に誤魔化した数秒後、藤崎はパッと顔を輝かせた。
「……あれ。じゃあ、俺がキューピッドってこと?」
目を丸くし、笑顔で自分を指差している。
「…………」
まあ別に、違わなくもないんだけど。
その質問には、無言を返しておいた。
◇
ラストオーダーの声がかかって少し経った頃、入り口の方で少しざわつく気配がした。
何事かと視線を向けると、仕事服らしきスーツ姿の男が、数人に囲まれて話している。
その男が遠慮がちに歩み寄っていく先には――目を見開き、固まっている高梨がいた。
彼女の隣にいる坂本さんが、怪訝な顔で男に文句を言っている。
周囲もそのただならぬ空気に気づき、ヒソヒソと話し始めた。
「ん……? あれ、河合じゃない?」
「ああ、高梨と付き合ってた?」
「……修羅場?」
(おい……元彼かよ)
不参加のはずだったのに、仕事の途中か帰りにわざわざ寄ったのだろうか。
高梨も、ひどく呆れたような顔で何かを言い返している。
俺は一度も向けられたことのない表情だった。
やがて、坂本さんが高梨を庇うように手を引き、二人は足早に会場を出て行ってしまった。
「話したい」などと言って、断られたのだろうか。
だとしたら、今さらどんな言い訳をするつもりだったんだろうか。
高梨の本当の気持ちを、詳しくは聞いていない。
初めて会話した夜、あのダイニングバーで話を聞いたときは、うんざりしたように呆れ果てていたけれど。
今は、どうなんだろう。
少し時間が経ち、「やっぱり……」と、あいつのことが恋しくなったりしていないよな?
グラスに残ったぬるいビールを飲み干す。
会場に取り残され、ひどく苦い顔をしている元彼らしき男。
見た目は、穏やかで誠実そうだ。
そいつを冷ややかな目で一瞥し、俺は帰り支度を始めた。
さっきまで俺の部屋にいたけれど、別々に出かけた高梨は、先に到着していた。
例の元彼は不参加ということで、安心して参加することにしたらしい。
元クラスメイトとかなのか、知らない男と盛り上がっている姿を遠目に見る。
(……腕、出すぎじゃね?)
たしか俺の家を出るときは、上に何か羽織っていたはずだ。
容赦なく照りつける太陽の下、白くて細い腕が露わになっている。
俺は、あの感触を知っている。
それが今、他の男たちの目の前で無防備に晒されていることに、妙な苛立ちを覚えた。
「芦田くん、ほんと久しぶりー! 仕事は何してるの?」
「……エンジニアだね」
俺が卒業後も関わりを持っているのは、三年のクラスの男子たちと、陸上部の一部くらいだ。
だから、今日いる連中のほとんどは、卒業以来初めて会う顔。
名前や呼び方も、正直はっきりと覚えておらず、無難な会話でやり過ごしていた。
ふと、後ろのテーブルの会話が聞こえてくる。
そこには、高梨がいた。
「なあ! 河合とは続いてんの? そろそろ結婚すんの?」
高梨が元彼が続いていると勘違いしている男の声。
――『そろそろ結婚すんの?』か。
周りからそう言われるほどの関係値だったことを知る。
「あ、えーっと……別れたんだよね、最近」
「えっ!? マジ!? ずっと仲良かったのに、なんで!?」
大声で驚かれている。
俺はクラスも違ったから、二人の付き合いの深さを知らないし、元彼のことは正直、顔すらまともに認識できていない。
(……へえ)
俺とみたいに、毎週末会ってた?
毎週末、寝てた?
胸の奥が黒いもので染まっていくのがわかった。
◇
不快感を誤魔化すように輪を抜けて、トイレに向かおうとした廊下で、彼女と出くわした。
苛立ちを抑えきれず、つい柔らかい二の腕に触れてしまった。
「……ちょ、ちょっと。誰か来るかもよ……!?」
恥じらいながら戸惑う彼女に、少し満足する。
この関係を隠すことが、急にどうでもよくなってしまった。
そうしていたら、本当に見られてしまった。
「……おまえら。もしかして、デキてる?」
よりによって、藤崎に。
「…………」
「あ、うん」
平然と答える。
限界まで目を見開いた高梨が、勢いよくこちらを向く。
焦る彼女を、目配せで会場へ戻らせた。
俺は、フリーズする藤崎の首根っこを掴み、トイレの洗面所に連れ込んだ。
「え、マジなの?」
「…………」
「付き合ってるん?」
興奮気味に尋ねられる。
まさかここで「三か月前から身体だけの関係」などと言うわけにもいかず、息を吐いた。
「……いい感じだから、邪魔すんな」
「? アプローチ中ってこと?」
「まあ、そんなところ」
適当に誤魔化した数秒後、藤崎はパッと顔を輝かせた。
「……あれ。じゃあ、俺がキューピッドってこと?」
目を丸くし、笑顔で自分を指差している。
「…………」
まあ別に、違わなくもないんだけど。
その質問には、無言を返しておいた。
◇
ラストオーダーの声がかかって少し経った頃、入り口の方で少しざわつく気配がした。
何事かと視線を向けると、仕事服らしきスーツ姿の男が、数人に囲まれて話している。
その男が遠慮がちに歩み寄っていく先には――目を見開き、固まっている高梨がいた。
彼女の隣にいる坂本さんが、怪訝な顔で男に文句を言っている。
周囲もそのただならぬ空気に気づき、ヒソヒソと話し始めた。
「ん……? あれ、河合じゃない?」
「ああ、高梨と付き合ってた?」
「……修羅場?」
(おい……元彼かよ)
不参加のはずだったのに、仕事の途中か帰りにわざわざ寄ったのだろうか。
高梨も、ひどく呆れたような顔で何かを言い返している。
俺は一度も向けられたことのない表情だった。
やがて、坂本さんが高梨を庇うように手を引き、二人は足早に会場を出て行ってしまった。
「話したい」などと言って、断られたのだろうか。
だとしたら、今さらどんな言い訳をするつもりだったんだろうか。
高梨の本当の気持ちを、詳しくは聞いていない。
初めて会話した夜、あのダイニングバーで話を聞いたときは、うんざりしたように呆れ果てていたけれど。
今は、どうなんだろう。
少し時間が経ち、「やっぱり……」と、あいつのことが恋しくなったりしていないよな?
グラスに残ったぬるいビールを飲み干す。
会場に取り残され、ひどく苦い顔をしている元彼らしき男。
見た目は、穏やかで誠実そうだ。
そいつを冷ややかな目で一瞥し、俺は帰り支度を始めた。