虐げられた末に復讐を終えた王女は、世界で一番幸せな王妃となる
「止め……っ!」

 ムガルバイトの静止を聞かずに、己の無力さを嘆いたエクリーユは、全身に炎を纏わりつかせ、自らの細い身体を塵一つ残らず灰にしようとして――命を絶ったはずだった。

「落ち着け」

 地を這うような落ち着いたテノールボイスが耳に飛び込んできた直後、なぜか全身を焼け焦がさんばかりに燃え盛っていた炎が霧散する。
 それに目を白黒させて驚いている間に、声の主に後方から羽交い締めにされてしまう。

「どうして、止めるのですか……!」

 押し殺した怒声とともに男を見上げたが、視線が交わる前に強烈な浮遊感と目眩に襲われてぐらりと視界が揺らぐ。

(これは……っ)

 エクリーユは、すぐさまそれが転移魔法を使用した時に感じるものだと気づく。

「どう、して……」

 その言葉を呟くだけで精一杯な少女は、ぐったりと男の胸元に身体を預ける羽目になった。

「あの場にいても、仕方がないだろう」

 転移魔法を発動させた張本人は、呆れた声を発する。
 それが憎らしくて仕方がない。
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