虐げられた末に復讐を終えた王女は、世界で一番幸せな王妃となる
 そのはずなのに――。

 彼が美しく自分に微笑みかけるたびに、目に映る景色が七色に光り輝いて見えるようになるなど、思いもしない。

(兄様、大好き……)

 これからもずっと一緒にいて欲しい。
 そうすれば、自分はもう二度と、誰かに傷つけられなくて済むから――。

「おいおい。最近見ないと思ったら……。他所もんに匿われてたのかよ!」

「ひ……っ」

 ムガルバイトと声を上げて笑い合っていると、エクリーユの穏やかな日常を引き裂く悪魔が現れた。
 それは事あるごとに不必要な暴力で妹を屈服させようと試みる、3男のフォセティだった。

 少女の喉からは自然と恐怖で引き攣った声が飛び出し、ガタガタと全身を震えさせて大好きな兄に縋りつく。

「フォセティ兄さん……」

「そんなに警戒すんなよ。ムガルバイトには手を出すなって、父ちゃんに命じられてるからな。なんもしねぇよ」

「エクリーユに、何をしたんだ……?」

「ははっ。なんも? 兄ちゃんが、遊んでやっただけだ。なぁ? 無能?」

「う……っ」

 自らの名前ではなく「無能」と呼ばれることは、エクリーユにとっては「立場を弁えろ」と命じられているのと同義であった。
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