〝都合のいい妻〟をやめさせていただきます。
プロローグ
エルシオン王国。
ここは、〝女性は男性を支える〟ことが当たり前の国。
女性が男性の前に立つなどありえない。並んで歩く時でさえ、僅かにでも後ろに下がっておくべきだ。
「ねぇ、見て……またやってるわ」
「いったいどういうつもりなのかしら」
――そんな国の王宮で、ひとりの女性が昼間から堂々と、男性を従わせて歩いている。
その光景を見て、侍女たちは眉をひそめて怪訝な表情を浮かべた。
「ああ、今日もお美しいですね。ミスリア」
「あら、あなたも素敵よ。ディラン」
パートナーでもない男性の名前を呼び捨てにして、相手の顎に手を添えて妖艶に微笑むのは……王太子妃のミスリアだ。
「信じられないわ」
「あれが王太子妃なんて、なんてはしたないの」
(――はしたない? ええ、自分でもわかっているわ)
周囲の声など聞こえないふりをして、ミスリアはひとりの男に腰を抱かれて共に歩き出す。
なんと言われてもいい。なにもかも失っても構わない。
(なぜならこれはすべて――旦那様と離縁するためだもの)