元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)

「何か俺たちに貴重品をくれるっていうのか?」
「ああ。しばらくここに黙って住まわせてくれたら、当分の間の飲料水を渡す。どうだ?」

 ここは荒れ地の中。近くに川もないし、飲み水の確保は死活問題だろう。
 年老いた老人は迷うそぶりを見せた。が、すぐ胡散臭そうに俺を見やる。

「ふ、ふん。嘘じゃないだろうな」
「嘘じゃない。俺は雨乞い師でもあるからな。一時間くらい、雨を降らせてやれる」

 大嘘だ。俺は雨乞い師ではない。ただ、秘密裏に王侯貴族階級の特権である魔法を使えるだけだ。

「なら、今すぐやってみろ」
「取引条件は守れよ」

 売り言葉に買い言葉で、俺は手を目の前にスっとかざした。俺以外には見えないだろうけども、小さく無色光の魔法陣が現れる。

「ふん。できるわけがないだろう」
「はは。子どもだからと嘘をついて」

 俺をバカにする村人の嘲笑が耳に届く。
 ふん。今のうちにせいぜい人の悪口を言っておけよ。嘘なわけがない。
 発動。――魔法『恵みの雨』。
 ゴゴゴゴ……!
 平屋の外に、少しずつ日陰が増えていく。周辺の空に雨雲が集まっていっているのだ。
 しばらくすると、ぽつぽつと雨が降り出した。

「雨だ! ええ……!?」
「この季節に雨だなんて! ペテン師じゃなかったのか!」

 湧き上がる歓声が、俺の魔法が成功したことをあらわしている。
 憎たらしい年老いた老人さえも、しきりに頷いていた。納得してくれたようだ。若干、悔しさが滲んでいたけど。

「これで取引通り、しばらく住まわせてもらってもいいな?」

 俺は平屋から出て、手前にいる年老いた老人に確認した。

「う、む。仕方ない。分かった。……だが」

 年老いた老人は、冷たい目で俺を見やる。やはり、冷徹な目だ。

「一週間以内には出て行ってもらう。少なくとも、あやつは」
「心配しなくても、俺も出て行くさ」

 年老いた老人の表情は、どことなく怪訝そうだった。

「……なぜ、そうもあやつに肩入れする。昨日今日の知り合いなんだろう?」
「仲良くなるのに付き合いの日数ってそんなに大事か?」
「……」
「じゃあ、しばらく世話になる。面倒はかけないようにするから。ありがとう、爺さん」
「だ、誰が爺さんだ」

 年老いた老人改め、強面の爺さんは村人を引き連れてどこかに戻っていった。「さぁ、早く雨水を貯め込むぞ」と村人たちに指示を出しながら。
 実は村長とかお偉い立場の人だったんだろうか。

「――さすが、ラーシヴァルト殿下ですね」
「!」

 聞き慣れた声に、俺ははっとして後ろを振り返る。
 そこには……なんと、雨にずぶ濡れの青年が立っていた。俺と会えて嬉しそうな、同時にどことなく気まずそうな表情で。
 俺の元護衛騎士レノスだった。

「レノス……どうして、ここに」

 俺は怒るのも忘れて聞くと、レノスはぷっくら膨らんだ小袋を手で掲げて見せた。

「ラーシヴァルト殿下が落とされたであろう、路銀を拾って参りました」
「俺の金貨を……?」
「ええ」
「……ありがとう」

 俺は無言でレノスから路銀だけむんずと受け取った。素っ気なく言い放つ。

「用が済んだのなら、帰れ。お前の居場所はあの小太り宰相のところだろ」

 俺の辛辣なあだ名の部分に、レノスは反応してくすりと笑った。

「相変わらず、口が悪くておられる」
「はぐらかすな」
「……」

 レノスは、俺の前にスッと片膝をついた。君子の礼をとる。
 驚いて息を呑む俺に、レノスは深々と頭を下げた。

「その節は大変申し訳ございませんでした。ラーシヴァルト殿下のお心を傷つけましたこと、深くお詫び申し上げます」

 俺はぐっと言葉を飲み込んだ。怒りや悲しみが胸の中に渦巻く。
 裏切られたと知った時、俺がどんな気持ちだったか。本当に分かっているのかよ。

「……別に。っていうか、なんで裏切ったんだよ」

 震える声で、核心を突いた。
 レノスは面を上げたが、すぐに目を伏せて訥々と語る。

「弁明の余地はございませんが。マミバ宰相から脅されておりました。自分の言う通りにしなければ、ラーシヴァルト殿下を暗殺するぞと」
「は……?」

 レノスを脅した? 俺を暗殺すると。
 呆気に取られたけど、ありえない話じゃなかった。マミバは俺が邪魔だったのだから、暗殺を企てても確かによかったはず。
 それが流罪で済ませられたのは……レノスがいてくれたから、なのか。
 俺は泣きたくなった。てっきり、実は嫌われていたから裏切られのだと思っていた。だけど、そうじゃなかったのか。

「本当に申し訳ございませんでした。ああするしか、俺にはもうあなたをお守りする手段がなかったんです。本当にすみま……」
「もういい。分かった」

 俺は泣きたくなる気持ちを堪え、強く笑う。

「信じるよ。お前のこと。俺を守ってくれてありがとう」
「!」

 レノスもまた、くしゃりと顔を歪めた。少し泣きたそうに。

「ありがとうございます。ラーシヴァルト殿下。この命尽きまるで、どうかあなたのお傍にいさせて下さい」

 俺は頷いた。
 許す。許すよ、もちろん。俺にとってもレノスは大切な人だから。

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