元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
第四話
「……ラーシヴァルト」
「イブキ」
イブキがなぜか、しょんぼりとした面持ちでとぼとぼ近づいてきた。
俺は慌てて羽織っていた外套を、イブキの上にかぶせた。少しでも、雨水が当たらないように。
「どうした?」
「すまん」
「ん? 何が?」
「俺のせいで、お前までこんな目に遭って…っ……! 怪我もさせてしまった……本当にすまない…っ……」
イブキは翡翠色の瞳をきつく閉じ、深々とうなだれる。
こんな目に。村人たちから追放を迫られた一連のやりとりのこと、すべてをイブキが背負ってしまっている。
それは……気のせいじゃないとは確かに言い切れない。仮に俺だけだったら多分、野放しにされていたはずだから。
本当に腹立たしい。差別なんて……絶対におかしい。
「やはり、俺はこれからも一人で生きて……」
「イブキ。――俺と新しい国を作らないか?」
「え?」
緩やかに不思議そうな顔を上げたイブキに、俺は優しく笑いかけた。
「差別のない優しい国を作りたい。そのために力を貸してほしい」
ただの人間も、鬼族も、獣人族も。みんなが手に取り合って暮らす国を。
俺はもうアルヴェルス王国には戻れないし、戻らない。だから、新しい国を作って、俺の理想とする世界を模索したい。
もう誰かが傷つく姿を見たくないから。俺やイブキのようなはみ出し者たちの居場所も作ってみせる。
イブキはぽかんとした顔をしている。
「国って……冗談がすぎるぞ」
「冗談じゃない。本気だ」
俺の真剣な目にようやく気付いたのか、イブキは押し黙った。なんと答えたらいいのか分からないといった表情だ。
しばらく逡巡した後……小さく、ふっと笑みをこぼした。参ったと言わんばかりに。
「俺なんて、狩りくらいにしか役に立たないが。よろしく」
「十分だ。俺だって、元『王太子』という肩書きくらいしか、役立てるものがない」
「おうたいし? 王子……だったのか?」
イブキは呆気に取られていた。
俺は苦笑とともに頷く。
「そうだよ。腹黒宰相に追いやられた間抜け王子だけど」
「何か悪だくみでもして、仕置きされたのか?」
「ふっ、はは。違う。派閥争いだよ。あっさり負けた」
「ハバツ争い……」
聞き慣れていない言葉なのか、イブキは不思議そうだ。やっぱり、少数民族で細々と暮らしてきたんだな。
「ラーシヴァルト! イブキ!」
「ああ、リスガ」
そこへ、レインコートを着たリスガが小走りでやってきた。猫耳の上にさらに、猫耳フードをかぶっている。可愛らしい。男の子だけど。
リスガはレノスに気付き、不思議そうにちょこんと首を傾げた。
「誰?」
「俺の兄貴分だよ。騎士様だ」
「騎士!?」
「元、ですよ。ラーシヴァルト殿下」
レノスがすぐに訂正する。腰を屈めてリスガと目線を合わせ、柔和に笑った。
「初めまして。レノスです。ラーシヴァルト殿下がお世話になっています。ありがとう」
「え、あ、いや……。そんなことない、けど」
リスガは、『殿下』という部分には反応しない。まだ意味がよく分からないんだろう。
「はは。愚痴の多い不遜なおにいさんだったでしょう? ご苦労お察します」
俺は口の端を引き攣らせた。――愚痴の多い不遜なおにいさん!?
な・ん・だ・それ! レノスって、俺のことをそんな風に見ていたのか!?
さすがに不服を申し立てたくて、俺はレノスに詰め寄った。
「お前、そんな風に俺を見てたのかよ! 誰が愚痴の多い不遜な……」
「違うんですか?」
「う……」
押し黙るしかない。不遜かはともかく、愚痴が多かったのはおそらく事実だ。
背後で、イブキが小さく吹き出す。堪えきれないのか、声を立てて笑った。
「おい、イブキ!」
俺が突っ込みの声を入れると、イブキは涙が滲んだ目を指で擦る。
「すまん。仲がよさそうでつい」
「あははっ。みんな、仲がいいんだね!」
リスガも楽しそうに笑っていた。
俺も笑った。こんな状況なのに、すごく楽しい。アルヴェルス王国にいた頃よりもずっと自由でのびのびできている。不思議だな。
「そうだ。ラーシヴァルト」
和気藹々とした雰囲気の中、リスガがふと思い出したように口を開いた。声の声量を遠慮がちに落として。