元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
「やった! 帰ってこられた!」
リスガはぴょんぴょんと飛び跳ねるような動きで、島の海岸を駆けずり回る。猫少年は今日も元気いっぱいだ。
俺も小舟から降りた。足下を見下ろすと、真っ白い砂浜が輝いている。綺麗だ。
「美しいところだな」
「そうだな」
イブキも俺の隣までやってきたので、俺たちはにこっと笑い合う。
後ろから、数日分の食料を詰め込んだリュックを軽々と持ったレノスが、のんびりと追いかけてきた。
「では、どちらまで移動しますか?」
「リスガが生まれ育った村まで行く。リスガ、案内してくれ」
「はぁい!」
俺に名前を呼ばれたリスガは、上機嫌で返答をする。
「こっちだよ!」
足取り軽く、森の中へ突っ切っていくリスガ。
俺たち三人は頷き合い、続けて森の中に挑んだ。青々と茂っているのは……天然樹か。そりゃあそうか。
塩害に強い人工樹も海岸沿いに追加した方が、いざという時の防風林になるかも。あとでカレシアから輸入して、植えよう。
「……なぁ、イブキ」
「なんだ」
「イブキだったら、どんな島国経営する?」
「?」
「ほら、こういう産業を強くしたいとか。ないか?」
「ええと……」
「ラーシヴァルト殿下。おやめ下さい。王族マウントは」
王族マウント?
俺は口をへの字に曲げた。マウントの意味くらいは把握しているけど、どういう意味だ。誰もイブキに上から目線で絡んだりはしていない。
レノスは苦笑いだ。
「彼は一般市民の出なんでしょう? そういった学問までは習っておりませんでしょう」
あ、と思った。確かに。小さな集落で暮らしてきた鬼族の民が、少なくともアルヴェルス王国の高度教育は受けられなかったはず。
咄嗟に謝ってしまった。
「ごめん。イブキ。訳の分からない話をしてしまって」
「……構わないが」
イブキは立ち止まり、何か意味ありげにレノスを見やる。どことなく、怒っているような目だ。
「なぜ、レノス殿までにも下に見られなくてはいけないのか」
えっ、と声を上げたのは、俺一人だ。びっくりしたんだ。そうもネガティブに受け取ってしまったのかと。
「イ、イブキ。違うって。レノスはそんなつもりじゃ……」
「黙れ、ラーシヴァルト。……俺は確かに王族ではないが。これでも、当主一族の長男だ。教養はある方だと自負している」
レノスはぽかんとしていたものの。年若い少年のプライドを傷つけたことを察し、すぐに誠心誠意、謝罪した。
「すみません、イブキ。あなたを下に見ているように受け取られたのなら、俺の落ち度です。本当に申し訳ない」
イブキは、はっとした顔をした。己を恥じるように目を伏せる。
「俺の方こそ、すまない。ついカッとなってしまって」
「そんなことはありませんよ。正しい矜持だと思います」
「……そうだろうか」
「ええ」
イブキはどことなく安堵していた。
俺もほっとする。一瞬、喧嘩になるのかと思ってしまった。でもそうか。俺たちよりも六歳も年上のレノスが、真っ正面から口喧嘩するわけがない。
でも、意外だな。イブキが鬼族の隠れ里の頭領息子だなんて。
何があったんだろう。里を追い出されるなんて、まるで俺と同じ境遇だけど……俺と違って派閥争いではない感じだった。
「イブキ」
そっと声をかけると、イブキは俺を見た。
俺はにこっと笑う。
「いつか話せる時がきたら、聞かせてくれよな。実家のこと」
「……」
イブキは言葉に詰まった様子だ。でも、なんとなく後ろ暗いような顔をする。俺の目を見つめ返さなかった。
「……ああ。分かった」
本当に?
思わず聞いてしまいそうになるくらい、なんだか様子が変だ。
「ちょっと、みんな! 早くおいでよ!」
「!」
はっとして顔を正面に向けると、膨れっ面のリスガがずんずんと少し戻ってきていた。
「みんなに話しかけても返事がないと思ったら、誰もいなかった! もうっ、恥ずかしい思いをさせないで!」
「ああ、ごめん、ごめん」
俺は苦笑いで宥めつつ、リスガの下へ駆け寄る。イブキのことは気になったけど、どう声をかけたらいいのか分からなかった。だから、逃げてしまった。
ちらりとイブキのことを振り返る。ほっとしたような表情をしているのを見て、この判断が間違いではなかったことを理解した。
でも。
友達なのに隠し事がある仲なんて、嫌だな。