元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
イブキside
***
イブキが生まれ育った鬼族の里では、いくつかの掟があった。
一つ、勝手に里の敷地を出ぬこと。
一つ、無益な殺生はせぬこと。
そして――。
「なぜ、殺してしまったんだ! イブキ!」
「……」
父の泣き叫ぶ声を、イブキは半ば茫然自失状態で聞いていた。
なぜ、と言われても。
「……仕方ないだろ。アヤメを犯そうとしていたんだ、このクズは」
「っ!?」
息を呑む父。アヤメとは、イブキの一つ年下の妹だ。
今、イブキの足下に転がっている人間は、妹を性的に襲おうとしたのだ。だから、イブキが手を下し、妹の身を守った。
「だ、だが、何も殺めなくても……っ」
「手加減する余裕が無かった」
「……このバカ息子っ! ひ、人族を手にかけるなんて、一番やっちゃいけないことなんだぞ! 分かっているのか!」
「じゃあ、アヤメを見殺しにすればよかったのか!」
一喝すると、父親はぐっと言葉に詰まって、絶望したように顔を伏せた。
違う、そういうわけじゃない、と。
そんなことはイブキだって分かっている。だが、本当に仕方なかったのだ。殺すことでしか、妹を守れなかったのだから。
「……出頭しよう。長老に」
ぽつりと呟く父の後ろに、イブキはおとなしくついていった。
どんな処罰が下るのかなんて分かり切っている。死刑だ。そうでなければ、この里の秩序を維持できないし、この里の平和も守れない。
けれど。
「すまんのぅ。イブキ」
長老は、なぜか泣きたそうな顔で謝った。
イブキは胡乱に思うほかなかった。なぜ、長が謝るんだ。罪を犯したのは、俺なのに。
「お前を守ってやることができない。だが、お前はまだ子ども。外界の者には、処分したと嘘をつく。あとはもう里を出て、一人で生
きていってほしい」
「!」
そんな。死刑にしてくれるんじゃないのか。
一人で生きていけって。迷惑な優しさでしかない。鬼族である俺が、どうやって一人で生きていけっていうんだ。
イブキは言いたいことすべてを飲み込み、無言で頷いた。
それが、イブキが里を出た経緯だ。
どこかで野垂れ死ぬはずだった。あの村が墓になるはずだったのに。
『イブキ。――俺と新しい国を作らないか?』
『え?』
『差別のない優しい国を作りたい。そのために力を貸してほしい』
ラーシヴァルトにそう声をかけてもらえた時、本当に嬉しかった。俺にも居場所を作ってくれる人なんだと。
同時に罪悪感もあった。だって、俺は所詮、罪人。あんな無垢で太陽みたいな男と一緒にいられるわけがないと、ずっと心のどこかで思っていた。
だからあの時、耐えきれなくなって拒み、また暴露してしまった。俺の血に濡れた罪を。
「……所詮、俺の人生はここまでだ」
時は巻き戻り、現代。最果ての孤島。
イブキは森の中で、刀を抜いた。切っ先を腹部に突きつける。
――もう死のう。ここで。
里には決して帰れない。仮にこの島を出て行けたところで、飢え死にするのも目に見えている。
だったら。
「……」
震える手で、ぐっと刀の先端を腹部に突き刺そうとした時。遠くから、太陽のように眩しい男の声が耳に届いた。
「イブキ! やめろぉおおお!」
「っ!」
横合いから押し倒され、イブキは相手の男と地面にもつれ合って転がった。
***