元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
俺は苦笑いで謝った。
「ごめん、ごめん。間違った。リスガは飲み干す姿も可愛いなって」
「! な、なんだ。そっか!」
単純なことに顔を真っ赤にするリスガだ。
後ろでレノスが小さく吹き出す。おい。笑うな。
俺は興味津々のイブキに声をかけた。
「じゃあイブキも。一緒に飲もう」
「……ああ」
コップを二人で持つ。炭酸水を汲むと、透明だけど、やっぱり小さな気泡がコップに付着していて、それがただの水じゃないことを示している。
「ちょっと、シュワシュワする水だ。最初は少しだけにしておいた方がいいかも」
「分かった」
イブキは少量だけ口に含む。――瞬間。
「!?」
イブキは、ぎょっとして口の中の炭酸水を地面に吐き出した。目を見開き、困惑した顔だ。
「なんだこれは……! 毒でも入っているのか!?」
「違うよ。だから、炭酸水だって」
リスガが呆れたように苦笑いで言う。
俺も苦笑いになった。でも、そりゃあ初めてならびっくりするよな。あのビリビリする独特な感じは。
「これでも、飲むと血行がよくなったり、色んな美容効果が期待できるんだよ」
「本当に毒じゃないのか……?」
「ああ。俺だって、この通りぴんぴんしてるだろ」
コップで汲んだ湧き水を飲む姿を改めて見せると、イブキは言葉に詰まっている。何度か俺と自分が持っているコップを交互に見つめた後、頑張って一気飲みした。
でもやっぱり苦手なのか、口をへの字に曲げている。
「まぁ、誰でも苦手なものはあるよな」
「……」
イブキは無言だった。レノスも、子どものリスガさえおいしく飲んでいるのにと、己に不満を感じているのかもしれない。
イブキがもう一度、湧き水を汲んで挑戦しようとしたその時だ。
「あれ? あれって船じゃない?」
リスガが一番に気付いた。
「船?」
「うん」
リスガが指差した方向を、俺もレノスも振り返る。遅れてイブキも振り向いた。
そこには、ボロボロになった小船がこの島に向かって流されているところが見えた。
難破船か……? この島に? どこから?
俺は怪訝に思ったものの、この島はもう俺たちの土地だ。何かあるかもしれないし、すぐに向かわないと。
「見に行こう! みんな」
俺が即座に身を翻すと、イブキたち三人も後をついてきてくれた。
上ってきた小山をくだり、海岸へ向かって走る。ぜいぜいと息を切らしながら、白い砂浜に向かうと……あっ! 誰か十数人もの人々がよろよろと歩いている。
「大丈夫ですか!」
目の前にどさっと両膝をついた若い夫婦に、迷わず駆け寄った。
どちらも二十代半ば頃だ。男性も女性も同じ衣装を身につけている。金糸で縁取られた白いローブ……の胸元に記された国章を見て、俺ははっとした。
――サーシェ王国。
教皇を国家元首とする絶対君主制の国。小さい国だが、宗教色が濃いと聞いたことがある。とはいえ、他国とほぼ外交をしないため、多くが謎に満ちた国だ。
サーシェ人が、まさかこの島に漂着するなんて。
「分かりますか、俺の言葉」
「はい……」
男性の方が先に返事をして、隣に連れ添う妻に声をかける。
「分かるよね? ベニート」
「うん」
女性――ベニートも頷く。寄り添い合う二人の姿に愛を感じるなぁ。いいな、夫婦って。
って、はっ! そんな妄想をしている場合か!
男性が再び俺のことを見上げた。
「大丈夫です。僕たちみんな、共通言語を話せます。ちなみに僕はカザロと言います」
「よかった。俺はラーシヴァルトと言います」
言葉が通じるのなら、スムーズに話を聞くことができる。
俺はほっとしたのち、眉尻を下げた。
「あの、何があったんですか? 氷山にでもぶつかったんでしょうか?」
「それが……ええと」
言いよどむカザロを、ベニートが押しのけて答えた。
「りょ、旅行中に海流に流されてしまって。それで、こちらに漂着しました」
「なるほど」
なぜ、二人がどもっていたのか分からないものの、旅行中だったのか。それでこの大所帯なら、まぁ納得はいく。団体旅行だったんだろう。
その時だ。
「うわぁ!」
誰か知らない人の怯える声が響いた。
俺ははっとして振り返る。そこには……手を貸そうとしたイブキと、イブキを見てぎょっとした顔をしているサーシェ人男性がいた。
イブキというか、正しくはイブキの頭部のツノを見てのことだ。
イブキは少し傷付いたような表情と、そして同時に苛立ちの表情を垣間見せていた。とはいえ、相手には「すまない」となぜだか謝って、立ち去ろうとする。
そんなイブキの態度でも、サーシェ人男性は震えたままでいた。
……サーシェ人からも、鬼族は差別されるのか。
俺は軽く絶望感を覚え、俯き、唇をぎゅっと噛みしめる。
でも。
俺はぐっと顔を上げた。――諦めてたまるか!
「みなさん! 鬼族の彼は、俺たちの仲間です!」
精一杯声を張ると、イブキを含めたこの場のみんながはっとした顔をして、俺の方を振り向く。
「彼は……少し、俺たちと見た目が違うだけでしょう? まだ一ヶ月ちょっとの付き合いですが、泣いたり笑ったり、ひとをからかったり、俺たちと何も変わらない! 差別や偏見はやめて下さい!」
先程、イブキに怯えていたサーシェ人が、バツが悪そうに俯いた。
砂浜が静まり返る。ざざっ、ざざっと、押し寄せる波の音だけが響いていた。