元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)

 誰かがぽつりとこぼす。
「ツノが生えた人間なんて初めて見た。鬼族……と言うの?」
「飾りかと思ってた」
「鬼族ってどこの国の民族?」
 口々にサーシェ人が呟く。
 彼らの目は純粋にイブキを理解しようとしている。絶望するにはまだ早いと俺は気付く。
 少しでもイブキのことを伝えたくて、俺は慌てて口を開いた。
「ええと、彼は……」
「鬼族は、元々は東大陸の民族だった」
 続けようとする俺を遮って、イブキが小さく話し始める。
 俺は意外に思った。人見知りのイブキが、率先して話すなんて。それだけ、自分を理解してほしいという思いが芽生えてきたのかもしれない。
 イブキは訥々と話す。
「俺の祖先は、島国で細々と暮らしていたらしい。だが、攻め入ってきた和国人に数の利もあって追いやられ、こちらの大陸に散り散りになって生き延びた。今はもう、鬼族の国はない」
「え。鬼族ってそんなに数が少ないの?」
 リスガが口を挟むと、イブキは小さく頷く。
「そうらしい。なかなか、子を授かれない一族だからな」
 俺も一つ頷いた。
「なるほど。繁殖能力が低いのか」
「ラーシヴァルト殿下。露骨すぎます」
 レノスに苦笑いで指摘された。しまった。またも、無神経王子と言われてしまう。
 だけど、イブキから口を開いて言われたあだ名は、今度は違った。
「配慮なし王子」
「ぐ…っ」
 ぐうの音も出ない。俺の方こそ、失礼な物言いをしてしまったよ。
 とはいえ、である。風向きが変わった。イブキへの偏見は薄れたように思う。
 俺はこほんと咳払い一つする。
「で、では、みなさん! 俺たちの村へご案内します! ついてきて下さい」
 食料は確実に足りなくなるけど……まぁ、それはみんなで確保したらいいだろう。なにせ、食料に溢れている土地だ。
 こんなあっさりと十数人も難民を受け入れるなんて、国王として見通しが甘いかもしれない。でも、ここはみんなの『居場所』にするつもりの国だ。一時的でも、受け入れたい。
 それに、船を直すまでの間だけになるだろうし……。
「……」
 俺はレノスと目配せをし合った。何か合図を送ったわけじゃない。ただ、思うところは同じのはず。
 未知の宗教国家からの来訪人。
 受け入れるにしても、無警戒のままではいけない。もっと詳しく話を聞き出さないと。この『国』を、みんなを、守るために。
 そんな俺の思惑をサーシェ人たちはいざ知らず、みんな感激した様子で、ぞろぞろと俺の後ろを歩いた。
 うち一人は、イブキに駆け寄って謝罪していた。さっき、怯えた態度を取っていた男性だ。他にもイブキに声をかける女性もいる。
 その中でイブキは柔和に笑っていた。よかったな、イブキ。
 ふと、イブキが俺を見た。小さく口を動かす。
 ――ありがとう。
「!」
 気が付いた俺は、イブキに向かってにこりと笑い返す。……だけども、すぐに視線を外し、表情を引き締めた。
 よくよく考えたら、彼らは実はサーシェ王国からの刺客という可能性があることに気付いたからだ。そんなことはない、と信じたいけども。
 ――俺が一番にしっかりしていないと。
 サーシェ人たちと純粋に楽しそうに話すイブキやリスガの二人が、ちょっぴり羨ましい。俺はもうああも純粋にはなれないから。
 でも、代わりに……俺がみんなを守るよ。
 みんなが、俺のことを精神的にも身体的にも守ってくれているように。

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