元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
「……俺は兄失格だな」
「え?」
「いや。分かった。ありがとう」
俺はペンダントをそっと受け取る。柔らかい笑みを返しながら。
「じゃあな。エリュー」
今度こそアルヴェルス王城前を発つ。
静かに顔を伏せたまま、とぼとぼと歩いていると。
「ラーシヴァルト殿下」
どこからか、小声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「?」
顔を上げ、右脇を見ると、そこには王立騎士団本部がある。
そして、なんと。
「みんな……!」
ずらりと王立騎士たちが大勢、整列して敬礼をとってくれていた。もちろん、王立騎士の全員ではない。いないのは、宰相側の者たちだろう。
全員でなくとも、俺にとっては十分励みになる見送りだった。
顔ぶれにレノスはいない。痛む胸を堪える。やっぱり……裏切られたんだな。
それでも毅然として小さく笑った。
――ありがとう。みんな。
目配せだけでお礼を伝え、俺は颯爽と城下町に下りた。馬を借りられる場所へ急ぎながら、路銀が入った袋を見下ろす。
持ってこられた路銀は、金貨が百枚ほど。馬を使って路銀をケチれば、隣国のカレシアまで問題なく移動できる。
もう夕方だ。早く隣の村までには移動しないと。
「カレシアに出たら、どうするかな……」
呟きながら、俺はいそいそと石畳で舗装された道を歩く。
そこへ、楽しそうにはしゃぐ子どもたちがすれ違っていった。幸せそうな表情を見て、俺はふっと笑みをこぼす。
よかった。少なくとも、今日の王都も平和だ。
俺はもうこの国の政治には関われない。でも、心から願う。――どうか、アルヴェルス王国の民が幸せであるようにと。
「……俺も自分の羽振りを考えないとな」
いつまでも、ズルズルとこの感情を引きずっているわけにはいかない。前を向いて、自分の人生について考え直さないと。
俺は、背負っていたリュックを背負い直す。歩幅を広くし、きびきびと歩いた。
これから住まう国。どんな国なら、住み心地がいいんだろう。
俺はもう平民だ。平民目線で生きやすい国、か。……正直、これまであまり考えていられなかった。だって所詮、俺は王族だから。
見本のような王太子。マミバの奴に嫌みったらしく言われたとはいえ……俺のどこが王太子の見本像だったんだろう。……こんな無力な王太子のどこが。
なんとも言えない気持ちでつらつらと考えていたら、王都の端にある貸し馬ギルドに到着した。金貨一枚で馬を一頭借り、さっさと外に出る。
「お釣りはいらない。あんたへのチップだ」
「あ、ありがとうございます!」
店主は嬉しそうににこにこ笑い、快く俺を送り出してくれた。元王太子だとは分からなかったみたいだ。もう出で立ちは庶民と変わらないからか。
ほっとしたような、でもがっかりしたような気分で、俺は馬に乗る。ランランという名の栗毛の馬に跨がって、王都を発った。
城塞都市である王都だ。門の下を抜けてから、なんの建物もない荒れ地へと飛び出す。砂塵を巻き起こしながら、ひたすら荒廃した道を突き進んでいると、――ん!?
俺の視界に砂塵が映った。ざざっと舞う砂塵は、なんと栗毛馬の耳の中へ入っていく。
「ヒヒーン!」
「ちょっ、ま……うわぁあああああ!?」
栗毛馬は驚いたのか、暴走して勝手に突っ走り始めた。
焦った俺はどうにか手綱で制御しようとしたけど、馬の扱いには実はさほど慣れていない。そのまま置き物のように座ったまま、運ばれていくしかなく。
――なんでこんなことに!?
幸先が悪いにも程がある。
「止まってくれよ、ランラン――ッ!」
俺の叫び声が、夕日が沈んでいく荒野にこだました……。