元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)

第二話



「ヒヒーン!」
「!?」

 どさっ。
 ようやく栗毛馬が動きを止めたかと思うと、反動で俺は地面に投げ出された。
 痛い。体のあちこちが。なんでこんな目に。

「ラ、ランラン……大丈夫か?」

 よろめきながら立ち上がって、栗毛馬に声をかけると、小憎たらしいことに「なんのこと?」と首を傾げている。おい。暴走してる自覚がなかったのかよ。

「大丈夫ならいいけど……はぁ。ギルドに返すか」

 運良く、村が目の前にある。手綱を引きながら、貸し馬ギルドがありそうな場所へ栗毛馬と一緒に歩く。
 アルヴェルス王国の王都から西。荒れ地に存在するオアシスのような村だ。この村の中心に国境があり、国外へ抜ける最短ルートになる。
 隣国カレシアは、国土の半数が荒れ地の国だ。飲料水や農作物を他国から輸入し、代わりに宝石や鉱物を輸出して成り立っている資源国になる。資源に乏しいアルヴェルス王国はよくお世話になっていた。
 ひとまずカレシアに入ってから、今後の計画についてしっかり考えよう。まだ見ぬ世界の生活が、今から楽しみだ。
 俺は、村の端にある貸し馬ギルドに栗毛馬を返却した。短い間とはいえ、可愛くて憎めない馬だった。またな、ランラン。
 村の中心地にいそいそと向かいながら……考えるのは、双子の弟王子のウシュベルーナのことだ。
 ちょっと人見知りでおとなしいだけで、心優しい子だと思っていた。仲良くやっていたと信じていたのに。
 ――あの小太り宰相と実は結託していたのか?
 ――そうでなければ、エリューハニスと一緒に見送りにきていたはずでは?

「……」

 兄上、兄上、と人懐っこかった幼少期のウシュベルーナの姿を思い出す。
 少しずつ距離を置かれていったように感じてはいたけど、それは兄離れしたのだろうとてっきり思い込んでいた。だけど、それは違ったのか……?
 俺は足を止め、そっと目を伏せた。遥か遠いアルヴェルス王城を振り返って、小さく呟く。

「ごめん。ウーシュ」

 お前を信じ切れない俺を許してほしい。
 裏切っていないと信じたいのに、状況がそれを許さない。でも、お前ならきっといい次期国王になるはずだとは信じている。
 だから、王位はお前に譲る。結局、最初から俺の居場所なんてなかったんだ。
 その時だった。
 ――ぐぅぅううう!

「!」

 お腹が盛大に鳴った。
 俺は苦笑いしてしまう。こんな時でも、お腹は空くんだな。
 そういえば、もうすぐ夜。どこかで夕食を食べよう。

「えっと、路銀は……、は!?」

 俺は仰天した。背中に乗せていたお金の包みを確認しても、なぜか中身がない。
 驚いてどういうことなのか焦っていると、通りすがりの村人が苦笑いで教えてくれた。

「その袋、底が破れてるよ。にいちゃん」
「マジで!?」

 言われて見てみると、確かに袋の底に穴が……。
 一体どこで落とした!?
 拾いに行こうと思ったものの、よくよく考えたら、ここまでほぼ栗毛馬の爆走状態で移動してきた。中身なんてあちこちに散らばっているに決まっている。
 ――終わった。
 俺はふらっとその場に倒れた。移動中に張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと途切れたこともあって。
 誰か救いの女神が俺の前に現れてくれないかな。……なんて。

「はぁ。バカバカしい」

 自分の心の声を鼻で笑いながら、ゆっくりと立ち上がった。国境はもうすぐだ。王太子時代のツテを頼れば、食事くらいどうにかなるはずだ。
 どさっ!
 そこへ大きな音を立てて、誰か赤毛の青年が倒れていた。んん?
 俺は苦笑いで声をかける。

「あんたも、路銀を無くしたのか? お互い災難だな」
「……」

 返事はない。
 勝手に俺と同じ状態だったと思い込んでいた俺だ。はっとして、慌てて赤毛の青年の傍まで駆け寄った。

「大丈夫か!? おい、しっかりしろ!」

 揺さぶっても、瞳は固く閉じられたままだ。状態をもっと確認したくて顔を覗き込んだ時、気付いた。青年の頭部に二本のツノがあることを。
 鬼族だ。圧倒的少数民族であり、……人々から恐れられ、差別されているとされる一族。
 初めて間近で見た。立派なツノだな。確かに強そうでカッコイイ。
 って、今はそれどころじゃない!

「すみません! 誰か、医者を呼んできてもらませんか!」

 必死に叫ぶが、集まり始めてきた村人の一人が「……この村に医者はいない」とだけ素っ気なく返す。
 俺は眉をひそめた。医者がいない? 本当に?
 だけど、確かに小さな村だからありえなくもない……か?

「では、どなたか! 彼を一緒に介抱してもらえないでしょうか!」
「……断る」

 冷たく返され、俺は驚いた。

「ど、どうしてですか」
「そいつのツノが見えんのか、君には」
「鬼族なのは分かります。でも、それとこれとは関係ないでしょう」

 鬼族だからって見捨てていいわけがない。困った時はお互い様のはずだろう。
 俺がきっぱりと断言したからか、年老いた村人は僅かにたじろいだ。

「わ、儂が間違っていると言いたいのか」
「そうです」
「ふ、ふん。バカバカしい。忠告してやったというのに」

 年老いた村人は悔しそうな、しかしどこか呆れた顔で、こちらに背を向けた。彼が杖をついて立ち去っていくと、他の村人もあっという間に解散してしまった。

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