元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)

「え……ちょ、ちょっと!」

 俺は呆然とする。引き止めても、誰も返事をしないし、振り向きもしない。
 どうしてこんなに冷たいんだ。俺が路銀を無くした理由を苦笑いで指摘してくれた村人さえも、俺と目を合わせずにそそくさといなくなってしまう。
 鬼族だから?
 種族が違う。たったそれだけのことで、人はこんなにも冷たくなれるのか。
 こんなの、おかしい。絶対に間違ってる。

「く、そっ……どこで介抱したらいいんだ」
「空き家を教えてあげようか?」

 頭上から幼い声が降ってきて、俺ははっとして顔を上げる。
 そこにいたのは、黒毛の猫耳を持つ獣人族の少年だった。十代前半くらいか。

「君は……嫌がらないのか?」
「別に。僕は子どもだもん」
「子どもだから……? どうしてそうなる」
「だって、僕の周りの大人はみんな、鬼族差別なんてしてなかった。今、初めて知ったくらいだよ」
「……そうか。ありがとう」

 ふっと柔らかく笑みをこぼすと、少年は顔をうっすら赤く染めた。

「な、なんだよ! からかってるのか?」
「からかってなんかいない。君みたいな子がいることが、鬼族たちの救いになるだろうなと思って」
「大袈裟すぎ」
「はは、どうだろうな。それで、空き家はどこにある?」
「あっち。案内するよ」
「頼む」

 俺は赤毛の青年を肩に担ぐ。ずっしりとした重みがのしかかって、よろめいたけど、意地で踏ん張った。
 少年が案内してくれた空き家は、村外れにあった。こじんまりとした平屋だ。といっても、岩を横堀りして作られた場所だった。
 夜だからか、あるいは岩の中だからか。ひんやりとして、少し肌寒い。

「よいしょっと」

 肩に担いだ赤毛の青年を、岩板の上に横たえる。
 彼の頬を軽く叩いて、意識があるか確認しようとした。だけど、その前に。

「ん…っ……」

 赤毛の青年の双眸がゆるゆると開く。綺麗な翡翠色の瞳だ。
 俺の青い瞳と目が合うと、ぎょっとしたように岩板からのけぞって転がり落ちた。

「おい! 大丈夫か!?」

 怪我はないかと詰め寄ると、――キィン!
 俺の首元に刀の切っ先が突きつけられる。赤毛の青年が、腰に履いていた刀を抜いたのだ。

「っ!」
「誰だ。お前は」

 警戒するような声音と表情で、赤毛の青年が言う。
 俺はその場から逃げ出すことはしなかった。俺もまた、剣を所持しているからだ。
 とはいえ、ここは穏便に話がしたい。宥めるように、至って平静に答えた。

「俺はラーシヴァルト。王都から出てきた旅人だ。君は?」
「……」
「お腹が空いているんじゃないか? 今、何か食料を持ってくるから、待ってろ」

 赤毛の青年は即座に拒否した。

「いらん。色欲目的の男からの施しなど」
「は?」

 俺はきょとんするほかなかった。しきよく目的の男?
 しきよく。シキヨク。――色欲!?

「はぁ!?」

 誰が色欲犯だ。俺にその手の趣味はないのに!

「そんなわけないだろ!」
「嘘をつけ。そうでもなければ、ひとをこんなところに連れ込まないだろう。変態め」
「だから違うって!」

 とんでもない誤解だ。俺は断じて男色家じゃないし、そもそも俺はそんな卑劣なことをする人間じゃない。失礼にも程がある!

「誤解だ。俺は君が倒れているところを介抱して、ここに連れてきたんだ。な、リスガ!」

 後ろにいるはずの少年リスガを振り向く。が、いない。――あれ!?

「リ、リスガ! なぁ、一緒に誤解を解いてくれよ!」
「知らなーい」
「なっ!」

 いつの間にか、リスガは平屋の外に出ていた。折り曲げた肘で頭の後ろに手を組み、どこかへ行ってしまおうとする。面倒事は勘弁して欲しいと言わんばかりだ。
 俺は急いで後を追いかけた。すると、リスガも焦ったように走り始め、俺も走る速度を上げる。気付いたら、リスガと追いかけっこをしていた。
 こんな、夕暮れ時だというのに。

「いい加減にしろってば!」
「俺の身の潔白を証明できるのは君だけなんだよ! 頼むから、説明してくれ!」

 リスガを国境付近までどうにか追い詰め、俺は懇願する。我ながら情けない元王太子さまだ。
 でも、このまま『男に乱暴を働こうとした元王太子』の烙印を押されるのは嫌だ。二重の意味で。
 リスガはそっとため息を吐く。そして……暗い目で俺を見つめ返した。

「……じゃあ、お金をちょうだい」
「え? お金?」
「払えないのなら、知らない。こっちだって毎日生き延びるので精一杯なんだ」

 不安そうな表情で吐き捨てるリスガ。
 俺は言葉を失った。毎日生き延びるだけで精一杯。そんな暮らしを、自国の民に……それもまだ子どもにさせていた事実が、元王族として恥ずかしく、また申し訳なかった。

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