元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
「……ご両親はどちらに?」
なんとなく訊ねてしまうと、リスガは嫌そうな顔をした。そのことに触れるな、と言いたげだ。
俺は慌てて「ご、ごめん!」と謝罪した。
「不躾だったな。本当にごめん。ただ、どうしてそんなに生活が大変なのか、どうしても聞きたくて……」
「お前には関係ないだろ」
「関係なくなんかない。俺は……」
この国の王太子だ。
咄嗟にそう言いかけ、はっとする。俺はもう元王太子に過ぎない。つまり、王族からは除籍されている。もうただの平民だ。
言いよどむ俺に、リスガは苛立ったように聞き返す。
「『俺は』? 続きは何?」
「……いや。ただ、もうすぐ大人になる年だから。年長者として知りたいだけだ」
「ふぅん。ま、どうでもいいよ。ばいばい」
立ち去っていこうとするリスガを、俺はもう追いかけなかった。
努めて笑顔で明るい声をかける。
「ありがとうな! リスガがいてくれて助かったよ!」
「! あ、あっそ!」
リスガは頬を赤らめつつ、ぎこちない仕草で去っていく。
俺はふぅと息をついた。戻ろう。あの鬼族の青年のところへ。といっても、まだいるのか分からないけども。
困っている人は放っておけない。もしかしたら……自国民なのかもしれない、というのもある。
元王族として、少しは民のために尽くしてから出て行こう。
元いた平屋に戻ると、鬼族の青年はまだいた。少し驚いた。
空腹で動けないのかもしれない。平屋のすぐ前までしか移動できていない。
本当はもうここから離れたかったんだろうな。なにせ、色欲犯の根城という勘違いをしたままだ。
「大丈夫か?」
急いで駆け寄ると、岩壁に寄りかかって座り込んでいる鬼族の青年はぽつりと呟いた。
「……った」
「何?」
「腹が減った……」
俺はついふっと笑みをこぼし、頷いた。
「分かったよ。俺も同じだ。何か、食料を……」
その時、背後に足音がこつんと響いた。
俺は咄嗟に身構えた。村人たちのあの冷酷な態度を思い出したからだ。もしかしたら、俺たちを村から追い出そうとするんじゃないかって。
だけど、違った。
「ほら。干しパンを持ってきたよ。三つだけだけど」
「リスガ!」
俺はぱっと顔を明るくした。ありがたい。これで一日は食いつなげるはずだ。
「ありがとう。本当にいい子だな」
「!」
ついリスガの傍に駆け寄って、その猫耳が生えた頭部をよしよしと撫でると、黒い猫耳がぴくぴくと動く。連動して、細長い尻尾も揺れている。
その表情は恥ずかしそうながら、どことなく嬉しそうだった。
「そ、そんなことないよ。いいから、食えよ」
「ああ。本当にありがとう。ほら、そこの君も」
俺は干しパンを一つ、鬼族の青年に放り投げて渡した。鬼族の青年はびっくりとした顔をしていたけど、すぐにかぶりつく。よっぽど空腹だったみたいだ。
俺も……干しパンを一口噛みちぎった。硬めであるけど、歯で食えないことはない。干しパンにしては柔らかめだ。
「リスガ。君も食べてほしい」
「僕は別に……」
「三人で食べよう。これも何かの縁だ」
「なんだそれ」
リスガは「ぷっ」と可笑しそうに吹き出す。「変なの」と笑いながら、干しパンにかじりついた。
すっかり夜になった空の下、三人でいただく食事。
不思議と、親近感を二人に覚えた出来事だった。