元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
第三話
「俺の名はイブキだ。失礼な勘違いをしてすまなかった。ラーシヴァルト」
鬼族の青年イブキはそう言って、頭を下げてくれた。
あの後、イブキの誤解は解けた。リスガが口添えしてくれたこともあるけど、何よりも俺を一人の人間として信頼してくれたみたいだ。
再び平屋の中で、俺は苦笑いで応える。
「いいよ。誤解が解けたんなら」
「本当にすまん。恩人に対して無礼なことを……」
「だから大丈夫だって。それよりも、イブキはどうしてこの村に?」
俺の記憶では、アルヴェルス王国の戸籍帳に鬼族は一人も存在しない。だから、俺にとって鬼族は噂で聞く程度の存在だった。
他国からやってきたとしか思えないが……この世界は、土地が広い。国が管理し切れていない土地も多い以上、アルヴェルス王国領内にいた可能性もある。
イブキは、なぜか暗い面持ちで俯いた。
「俺は……訳あって里を追い出されてしまってな。行く当てもなくさまよい歩いていたら、ここに辿り着いた」
何か後ろ暗いことをしてしまったのか?
俺は怪訝に思いつつも、別のことを問う。あまり深く踏み込まない方がいいと思って。
「地元の村は、アルヴェルス王国領か?」
「……もしかしたら、そうかもしれん。だが、里の所在場所をもらすことはできない。すまないな」
「そう、か……」
領土の奪い合いが過激化している昨今だ。知らない方が、お互いのためだろう。
俺は、隣にちょこんと座っているリスガを見た。
「リスガは? ご両親はどこ……あっ」
つい聞いてしまってから、俺は慌てて口をつぐむ。そういえば、両親のことには触れて欲しくないようなのだった。
「ご、ごめん。俺、また……」
「いいよ。別に。答えて困る話でもないし」
リスガはあっけらかんとした顔で……だけど、膝を腕で抱えながら話す。心細そうに。
「両親はね、もういない。病気で死んだ。半年前くらいに」
「え……」
ご両親が他界。
俺は返答に窮した。自分から聞いておきながら。……そうか、もう亡くなってしまったのか。リスガを置いて。リスガはまだ、明らかに未成年なのに。
俺はバツが悪くなって、もう一度謝った。
「ごめん」
「謝る必要ないよ」
「だとしても、ごめん。つらかったよな。ずっと一人で」
「……」
沈黙するリスガの頭に、ぽんと軽く手を置く。しつこいかもしれないけど、こうしてやりたかった。よく頑張って生きてきたなって意味で。
リスガはほんの少し、泣きたそうに黒曜石のような瞳を揺らした。これまでずっと一人で孤独だったんだろうな。本当によく頑張ってきたよ。
それにしても、おかしい。保護者がいない孤児は、孤児院に引き取られるはずなのに。
「リスガ。孤児院に行かないか? 俺がどうにか手続きするから」
柔らかく微笑みながら、訊ねる。
リスガは不思議そうに目を瞬かせた。
「そこは、飢えなくてもいいところ?」
「もちろん」
「ふぅん……」
リスガはスッと立ち上がった。
「……ちょっと考えたい。僕、『村』を離れたくないから」
そう言って、リスガはとぼとぼと平屋を出て行く。
村、か。この村のことだよな。住みよい場所なのか、この村は。少なくとも、リスガにとっては。
『そいつのツノが見えんのか、君には』
鬼族であるイブキを助けてくれなかった、村人たちのことを思い出す。
怒りとともに、やるせなさも感じる。俺は結局、彼らに差別が悪いことだと自省を促す力を持っていなかった。差別なんて絶対いけないことなのに。
人を切り捨てた分だけ、人は孤独になる。
俺の持論だ。
「ラーシヴァルトは旅人だと言っていたな」
「ああ、うん」
イブキの声に、現実に引き戻される。
岩板を挟んで向こう側にいるイブキは、控えめに柔らかく笑んだ。
「これからどこに行くんだ? カレシアか?」
「そうだよ。イブキは……ええと、行く当てがないんだよな?」
それはそうだろうと思う。少なくとも、アルヴェルス王国民ではない鬼族だ。
もしかしたら、どこの国の戸籍も持たないのかもしれず、だとしたらどこの国にも入国すらできない。
イブキは、空元気で笑う。
「そこらの森で自活する。心配するな」
「……」