元王太子の俺、島国で王やってます!(※ブロマンス要素あり)
ぱちぱちと目の前の焚き火が爆ぜる。
俺は少し悩んだ。このまま、一人でカレシアに渡っていいものかと。
リスガの件を終えてからになるものの……イブキのことだって放っておけない。話せばこんなにも『普通』なのに、なぜ冷遇されなくてはいけないのか。
他の鬼族も、こんな理不尽で冷淡な世界でひっそりと生きているのかな。
イブキがすべてを察しているように、一人で生きていくと宣言していることもまた、切なく思った。きっとここまで来る道中にも、民から石を投げられてきたんだろう。話さないだけで。
俯いていた俺は、力強く顔を上げた。目の前のイブキの顔を真剣に見つめる。
「イブキ。俺と一緒に来ないか?」
「え?」
きょとんとしているイブキに、俺は優しく笑いかける。
「一人よりも二人がいい。俺とどこか違う国に行こう。二人ならどうにかなるだろ」
そうだ。俺たち二人で力を合わせたら、どこに行ってもやっていけるはずだ。
その方がきっと楽しい生活にもなる。
俺は前向きに声をかけたたんだけど……でも、イブキは素っ気なく顔を背けた。
「……一人で行け。俺が一緒ではお前の足を引っ張る」
「そんなことない! 大丈夫だって」
「気遣いだけ受け取っておく」
決して頷かず、ごろりとその場に寝そべるイブキ。
こんなにもいい奴なのに、なんでみんな差別するんだろう。なんだかますます放っておけない。
だけど、無理強いはダメだ。ひとまず俺も横になった。焚き火のすぐ真横に。
「明日、また話そう。おやすみ。イブキ」
「おやすみ」
イブキは『おやすみ』というところにだけ返事を返した。
焚き火は燃やしたままだけど、朝までには消えているだろう。
その日の夜、夢を見た。俺の元護衛騎士……レノスの夢だ。
レノスは俺が十歳の頃に、俺の護衛騎士に抜擢された。当時の俺はやんちゃだったから、よくお忍びで下町に行っていたんだけど、一緒についてきてくれたっけ。
身分を伏せて仲良くなった仲間たちが言い争う姿を目撃し、俺は仲裁役として首を突っ込んだことがある。だけど、それで逆にうざいからと仲間外れにされてしまった。悔しいし、腹立たしかった。
『さすが、ラーシヴァルト殿下ですね』
『え?』
『わざわざ、ご友人の仲を取り持とうとされるなんて。そのお歳でなかなか、できることではありませんよ』
その翌日、なぜか仲間たちが謝ってきた。仲間外れにしてごめんと。
話をよく聞いてみたら、レノスが誤解を解いてくれたようだった。
レノスはいつもそうだった。俺のことをよく理解してくれていて、それでいて俺の心に踏み込みすぎない。温かく見守ってくれる兄貴分――。
「…っ……」
眠っている俺の眦から涙が流れ落ちる。
レノス。どうして、俺を裏切ったんだ。
――本当は俺、嫌われていたのかな?
レノスの優しさに甘えすぎていたのかもしれない。わがままな王子だと内心では呆れていたのかもしれないな……。
そこで、俺は目が覚めた。目の前にあった焚き火の炎は小さく燻っている。うっすらと、白煙が立ちこめていた。
「なぜ、泣いているんだ」
「イブキ」
体を起こすと、イブキはもう起きていた。地面にあぐらを掻いて座っている。刀は脇に置いて。
俺も視線をさ迷わせた。あっ、よかった。剣はちゃんとある。
俺は涙を手の甲で拭い、努めて笑った。
「実はさ、大好きだった兄貴分の夢を見て」
「もしや、お国から追放されたという件で、離ればなれになったのか?」
「裏切られた」
あっけらかんと答えると、イブキは目を軽く見開いた。
不思議だ。出会って二日目の相手に、こんな重い話ができるなんて。
それは俺の中では急激に距離を縮めた相手だからかもしれないし、あるいは、逆にまだよく知らない相手だからこそ、話しやすいのかもしれなかった。
「裏切られた? なぜ」
「さぁ……? よく分からない」
「腹立たしいことだ。己の弟分を切り捨てるなど」
「ありがとう。イブキ」
俺のために怒ってくれる人がいる。俺が悪いわけじゃなかったという気がして、心が楽になった。たとえ、本当は俺が悪かったのだとしても。
それとも……他に何か事情があったんだろうか。小太り宰相に脅されていたとか。
って、俺の希望的観測だな。はは……。