クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「歌うのが苦手なのに、それでも書かずにはいられなかった言葉……それって、先輩の中にずっと吐き出したかった思いがあったってことですよね?」
「…………大したことじゃない。……ただの、青臭い独り言だ」
「嘘です。……先輩はいつも、仕事ではロジカルで無駄がない言葉しか選ばないじゃないですか。……だからこそ、その裏側にある、本音を知りたいんです」

カラン、とグラスの中で氷が鳴る。
私は少しだけ酔ったふりをして、でも、頭はこれまでになく冴えていた。

「……先輩って、仕事中いつも平気そうな顔してるのに、時々、何かを必死に我慢してるみたいに苦しそうに見える時があるんです。……私は、先輩が隠してるその本音を聞いてみたいんです。……ねえ、ダメですか?」

「…………」

先輩が、深く息を吐き出す。
その指が、カウンターの上で迷うように彷徨い、私のグラスのすぐ近くで止まる。
見上げた先輩の瞳は……今まで見たことがないくらい熱を帯びていた気がした。

「……りんりん。お前、……自分の立場、分かってるのか?」
「立場? ……後輩、ですよね? ……それとも、……ただの、一人の女の子ですか?」

ふにゃりと柔らかく笑ってみせる。けれど、視線だけは逸らさずに真っ直ぐに問いかけた。

カウンターの下で、先輩の大きな手が私の指先に、微かに触れた。
火傷しそうなほど熱くて、微かに震えている。
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