クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#25【凛視点】 「私の家まで、送ってくれませんか?」——最後の切り札を切った夜

バーを出ると、冬の夜の冷気が火照った頬を容赦なく打った。

(……先輩、逃げようとしてる……)

前を歩く大きな背中が、あからさまに私との距離を取ろうと少し急ぎ足になっている。

さっきのバーで、あんなに熱い手が触れ合ったのに。
あの瞳は、もう「後輩」を見るものじゃなかったはずなのに、上司という最後の壁がどうしても壊せない。

このまま駅に着いて、「じゃあな」と背中を向けられたら?
……そんなの、絶対に嫌だ。

もう、なりふり構っていられなかった。
アルコールは確かに回っているけれど、足元がおぼつかないほどじゃない。
でも私は、駅のロータリーが見えてきたあたりで、わざと足の重心を崩した。

「あっ……」
「りんりん? 大丈夫かっ」

すぐに力強い腕が伸びてきて、私の体をしっかりと抱き留める。
よろけた勢いで、先輩のコートが頬に触れた。
すぐ近くにある彼の匂いに、ドクンと心臓が大きく跳ねる。
その動揺を隠すように、私は少し潤んだ瞳を下から向けた。
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