クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「……りんりん」
「……先輩。……まだ、一緒にいたいです」

振り返った先輩の瞳は、エントランスの明かりを反射して、困ったような……でも隠しきれない熱を宿している気がした。

「……りんりん、酔ってるだろ。……送るって言ったのは、俺だけど。……これ以上はもう、俺も自信がないよ」

静寂の中で聞こえたその声は、いつもの冷静な先輩の声じゃなかった。
少し掠れていて、どこか苦しそうで……
でも、その言葉を聞いた瞬間、先輩もずっと私のことを想ってくれていたのだと、ようやく気付く。

ただ……ここで私が「好きです」と告げても、きっと彼は上司としての最後の理性で私を諭し、はぐらかしてしまうだろう。
だから私は、もう「ただの上司と後輩」には戻れないところまで踏み込みたかった。

「……酔ってません。……自信、なくていいです。……一緒に、いたいです」

私は先輩を真っ直ぐに見つめ返した。もう、逃げ道なんていらなかった。

重い沈黙の後、先輩が長い吐息を一つ漏らした。
白い息がふわりと二人の間を漂い、消えていく。その長い吐息は、何かを諦めたみたいに静かだった。

「……後悔しても、知らないぞ…」

その声は、私を突き放すにはあまりにも弱々しくて。
もう、これ以上は自分を抑え込めないのだと、静かに教えてくれているようだった。
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