クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#1【先輩視点】「俺の確認ミスだ」——守るつもりはなかったのに、気づけば全部庇っていた

今日は、彼女の最初の山場だ。
自分で一から練り上げた企画を、プロジェクトリーダーの俺と並んで得意先にプレゼンする——担当する時間は長くないとは言え、入社してまだ三ヶ月の彼女にとって、それがどれほどのことか。

俺は手元の資料を捲るふりをしながら、営業部のデスクから遠目に彼女――御空(みそら) 凛の姿を見つめていた。
何度も深呼吸を繰り返している。緊張するなという方が無理な話だ。

(……大丈夫だ。あんなに練習していたんだから)

心の中でそう呟くが、俺から歩み寄って優しい言葉をかけてやることはしない。
今日、俺に課せられたミッションはただ一つ。私情を挟まず、徹底して冷静な「上司」を演じきること。

……いや、半分は自分への言い訳だ。
本当は、一度でも彼女に優しくしてしまえば、必死に抑え込んでいるこの感情に歯止めが利かなくなることを恐れていた。
十歳も年下の部下。恋愛対象として見てはならないと自分に課した厳しい戒めが、彼女の何気ない笑顔ひとつで意味を失ってしまいそうになることが、たまらなく怖い。

だから俺は、今日も自分に呪文をかける。
意識するな。無心になれ。
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