クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
プレゼンは、中盤まで完璧だった。
俺が流れを作り、得意先の空気は温まっている。
いよいよ、彼女の出番だ。

「では、ターゲット層の具体的な反応については、企画担当からご説明します」

視線を送る。彼女は「はい!」と返事をして、大きく息を吸い込んだ。
練習通り、ハキハキとした声が会議室に響く。
企画部としての視点、若手ならではの感覚。
……なるほど。部長がこのプロジェクトに彼女を抜擢した理由が、今なら分かる。

誇らしい気持ちで彼女の横顔を見ていた、その時だった。

「特に、仕事終わりの自分へのご褒美としての購入意向は、既存商品の……えっ」

彼女の言葉が止まった。

(……しまった)

……モニターの数値と、手元の資料の数値が食い違っている。

会議室の空気が、一瞬で冷え込んだ。得意先の部長の視線が鋭くなる。

俺の確認ミスだ。いや、彼女のミスかもしれないが、それをそのまま出させてしまった俺の全責任だ。
彼女の顔から、血の気が一気に引いていくのが分かった。

考えるより先に、俺の口が動いていた。

「失礼いたしました。お配りした資料の数値、私のミスです。正しくはこちらになります」

声に動揺は混ぜない。
涼しい顔で頭を下げ、正しい数値を淀みなく補足する。
そのまま流れるように、彼女の担当パートを引き取った。

彼女は隣で俯いたまま動かなかった。その肩が、ほんのわずかに強張っているように見えた。
……今の俺にできることは、この場を立て直すことだけだ。
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