クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
いくつものデスクが重なり、パーテーションもある先のデスクの小さな空き缶が、遠目で見えるはずがない。
自分の耳の端が熱くなっていくのが分かった。冷房が効いているはずなのに、異常に暑い。

(……まずい。絶対に、今の言い訳は苦しい)

エレベーターが九階に着き、逃げるようにロビーへ足を踏み出した。
彼女が隣に並び、「今日、朝から暑いですよね。もう完全に夏ですね」と明るく話題を変えてくれたことに、俺は心底救われる思いだった。

「……そうだな。……俺はどちらかと言えば、冬の方が好きだが」
「あ、そうなんですか! 意外です、なんか先輩ってクールで涼しい感じがするので、夏っぽいイメージありました」

夏っぽい?

思わぬ言葉に、俺は不意を突かれて彼女を見た。
真っ直ぐな笑顔が朝から眩しくて、思わず見惚れそうになる。
ただ、明るい彼女にそう言われるのは不思議と悪くない気分だった。

「……まあ、悪い気はしない」

平静を装いながら、正面を向く。
執務室へ続く長い廊下。彼女の歩調がゆっくりであることに気づき、俺も無意識に歩幅を合わせた。
朝の誰もいない廊下に、二人の足音が重なって響く。
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