クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#4【先輩視点】意識しないなんて無理だった——静かに白旗を揚げた夜

プロジェクトが始まって三ヶ月。
打ち合わせの回数も増え、彼女と言葉を交わす機会も多くなってきた。
エレベーターで一緒になった時など、仕事以外の雑談も少しできるようになったが、俺は極力「真面目な上司」のラインを崩さないように気をつけていた。

(……今日は社内飲み会か…距離をおいて意識しないでおこう)

居酒屋の奥の座敷。営業部と企画部の合同飲み会。
俺はあらかじめ、企画部のメンバーが集まっているエリアから離れたテーブルに陣取った。
ネクタイを緩め、同僚たちと他愛ない話をしながらジョッキを傾ける。気の置けない連中との酒は純粋に楽しい。

「なんか最近機嫌いいよな。プロジェクト順調なのか?」
「まあな。優秀なメンバーに恵まれてる」
「ははっ、お前がそんな素直に褒めるなんて珍しいな!」

同僚の冷やかしに肩を揺らして笑いながらも——俺の視線は、無意識のうちに座敷の向こう側をさまよっていた。

居酒屋の喧騒で、話の内容までは聞こえない。
だが、同期の女子とジョッキを合わせ、楽しそうに笑い合う彼女の姿はよく見えた。

仕事中には見せない、年相応のあどけない笑顔。
何か冗談を言ったのか、いたずらっぽく笑ってビールを飲む姿を見ていると、不思議とこちらまで心がほぐれていくのが分かった。
< 144 / 210 >

この作品をシェア

pagetop