クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
(……いかん、見すぎだ)

ふと、彼女の顔がこちらに向いたような気がした。
俺は慌てて視線を目の前の同僚に戻し、ちょうど聞こえてきた冗談に、わざとらしく大きな声を出して笑ってみせた。

「なんだそれ、バカじゃないのか」

目尻を下げ、陽気に笑いながらも、心臓は少しだけ嫌な音を立てていた。

(……目が、合ったか?)

視界の端で、彼女が箸を持ったまま少し固まっているのが分かった。
不愛想な俺が急に笑い出したのを見て、気味が悪いとでも思われただろうか。それとも、こっそり見ていたことがバレて引かれたか。

俺は絶対にそちらを見ないよう、必死で同僚との会話に意識を向け続けた。
彼女が視線を外してグラスに口をつける気配を感じて、ようやく小さく息を吐き出す。

(……気づかれては…ないか…?)

……確信が持てないまま口にしたビールは、いつもより少しだけぬるく感じた。

俺は感情を見せない上司を演じることで、なんとか彼女との距離感を保っている。
もし……この好意が少しでも透けて見えてしまったなら、彼女は一体どう思うだろうか。

(……意識しないなんて、無理な話だな)

楽しそうに揺れる彼女の肩を遠くから眺めながら、俺は心の中で静かに白旗を揚げていた。
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