クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「では、今日はこれで」

ようやく会議が終わり、俺は小さく息を吐いて立ち上がった。
資料をまとめ、同僚の横に並んで廊下へと出る。張り詰めた空気がなかったせいか、いつもより思考のガードが緩んでいたらしい。
無意識のうちに、素の感想が口を突いて出た。

「……今朝の会議、空気がまるで図書館みたいだったな。落ち着くけど妙に眠くなる感じ」

言った直後。
隣を歩いていた同僚が、ギョッとしたようにこちらを見た。

「はあ? 図書館? 落ち着く? 何言ってんだお前、怒られるぞww」

素っ頓狂な声でツッコまれ、俺は怪訝に眉を寄せた。

「……そうか? 俺はそう感じたんだが」
「そうか、じゃないよ! 部長に聞かれたらどうすんの!」
「……部長はもう行ったろ」
「いやいやいやそういう問題じゃなくて——!」

同僚が頭を抱えている。
俺は本気で不思議だった。「静かで集中できるいい環境だった(ただ眠気を誘うのが難点だが)」という褒め言葉のつもりだったのだが、どうやら彼の解釈は違ったらしい。
「たるんでる」とでも取られると思ったのだろうか。

「……そうは思わなかったが」

なおも淡々と返すと、同僚は「お前たまにそういうとこあるよな……」と呆れたように肩をすくめた。

(……言葉の選び方が悪かったんだろうか)

まあ、今考えても答えは出ない。俺は同僚の言葉を聞き流しながら、自席に戻って濃いコーヒーを飲むことだけを考えた。
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