クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
夜、銀座の和食店。
和やかな空気の中、俺は隣に座る彼女の様子を周囲に気づかれないよう細かくチェックし続けていた。

愛想よく笑ってはいるが、運ばれてくる料理にはほとんど手をつけていない。形ばかりの乾杯で口をつけたビールも、まったく減っていなかった。

(思ってる以上に辛そうだ……)

そう判断した矢先だった。
上機嫌な得意先の担当者が、彼女の前に置かれた陶器のお猪口へ徳利を向けたのだ。
断り方を探しているのか、彼女がわずかに動きを止めたのが分かった。

俺は躊躇なく、彼女と担当者の間に自分のお猪口を差し出した。

「失礼します。……それは私が」
「彼女、明日朝一の対応を抱えておりますので今夜はこの辺りで。その分は、私が謹んで頂戴します」

あえて淡々と、事務的なトーンで告げる。
当然、明日朝一にそんな予定など入っていない。真っ赤な嘘だ。
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