クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
宴が終わり、冷たい夜風が吹く銀座の路上。
タクシー乗り場で得意先の担当者と話をしている部長から少し離れた場所で、彼女が小さく息を吐き出すのが聞こえた。

限界まで張り詰めていた糸が、ようやく緩んだような吐息。
本当は「よく頑張った」と労ってやりたかった。けれど、上司としての俺がかけられる言葉は、限られている。

「……今日、しんどかっただろ」

正面の道路を見たまま、短い言葉だけを投げる。

「お疲れ様。部長には君は先に帰らせたと伝えておくから。……明日、無理するなよ」

これ以上踏み込めば、俺の中の壁が決壊してしまう。

「……はい。……ありがとうございます」

震えるような、か細い声。
俺は一度だけ短く頷き、それ以上は何も言わずに部長の方へと歩き出した。

(……これでいい。俺は上司としての務めを果たしただけだ)

自分にそう言い聞かせながら、夜風で熱い頭を冷やした。
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