クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
#8【先輩視点】「りんりん、これ使って」――口走ってしまった名前と、土砂降りの逃亡劇
彼女の体調が戻ってからの、最初の社外打ち合わせだった。
午前中は別行動で、現地で合流してそのまま会議へ。
病み上がりの彼女に無理をさせていないか気になっていたが、会議中の彼女はしっかりと対応していた。とはいえ、まだまだ本調子ではないはずだ。
会議を終え、協力会社のビルを出る。
駅へ向かう最短ルートである、川に架かる長い橋を渡り始めてしばらく経った時だった。
川面を吹き抜ける風が、急に冷たい湿り気を帯びた。
横を歩く彼女が身震いしたのとほとんど同時に、アスファルトへポツリと黒い染みが落ちる。
「……降ってきたな」
見上げると、いつの間にか灰色の雲が空を覆っている。パラパラという音は、数秒後には容赦ない土砂降りへと変わった。
最悪なことに、ここは橋の真ん中あたり。数分走れば橋を渡りきれるが、土砂降りになった今、その数分すら病み上がりの彼女には長い。
隣で彼女が鞄をかき回し、青ざめた顔をした。
「すみません、私、傘を忘れて……」
俺の鞄には、折りたたみ傘が一本入っている。
だが、折りたたみ傘の小さな布面積で、大人が二人濡れずに歩くことなど不可能だ。どちらかの肩が必ず濡れるし、そもそも彼女と密着して歩くなど、俺の理性が持つはずもない。
俺の中で、瞬時に最優先事項が決定された。
午前中は別行動で、現地で合流してそのまま会議へ。
病み上がりの彼女に無理をさせていないか気になっていたが、会議中の彼女はしっかりと対応していた。とはいえ、まだまだ本調子ではないはずだ。
会議を終え、協力会社のビルを出る。
駅へ向かう最短ルートである、川に架かる長い橋を渡り始めてしばらく経った時だった。
川面を吹き抜ける風が、急に冷たい湿り気を帯びた。
横を歩く彼女が身震いしたのとほとんど同時に、アスファルトへポツリと黒い染みが落ちる。
「……降ってきたな」
見上げると、いつの間にか灰色の雲が空を覆っている。パラパラという音は、数秒後には容赦ない土砂降りへと変わった。
最悪なことに、ここは橋の真ん中あたり。数分走れば橋を渡りきれるが、土砂降りになった今、その数分すら病み上がりの彼女には長い。
隣で彼女が鞄をかき回し、青ざめた顔をした。
「すみません、私、傘を忘れて……」
俺の鞄には、折りたたみ傘が一本入っている。
だが、折りたたみ傘の小さな布面積で、大人が二人濡れずに歩くことなど不可能だ。どちらかの肩が必ず濡れるし、そもそも彼女と密着して歩くなど、俺の理性が持つはずもない。
俺の中で、瞬時に最優先事項が決定された。