クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
翌日。
出社するなり、彼女が俺のデスクに近づいてくる気配を察知して、僅かに心臓が跳ねた。

「昨日は本当にありがとうございました。風邪、引いてませんか?」

真っ直ぐな目でそう気遣う彼女に、俺は意識していつもの無表情を作った。
……昨日のことを、変に意識しているのはきっと俺だけのはずだ……そうであってほしい。

「ああ、大丈夫だ。それより昨日の修正データの件だが…」

必要以上に感情を乗せないよう気をつけながら、仕事の話へ切り替える。

「例の資料、今日の午後イチの会議で使うことになった。午前中に最終チェックを終わらせたい」

昨日の出来事を曖昧なまま流すのは良くない気もした。だが今ここで触れたところで、余計に意識させるだけだろう。だから普段通り進めるしかない。

(……これで終わってくれ)

そう思った、次の瞬間だった。
「あ、はい。……あの、先輩、昨日の傘なんですけど」
(……やはり、そこに戻るか……!)

胸の奥が一瞬だけざわつく。
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