クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
別に責められるわけじゃない。彼女は傘を返したいだけだ、分かっている。
それでも、昨日自分が口にした呼び名まで一緒に思い出してしまいそうで、今はまだ向き合える気がしなかった。

「悪い、その話は後だ。クライアントからのメールも来てるから先に確認して修正にかかってくれ」

思った以上にきっぱりした声になってしまった。

「っ、はい!」

彼女は小さく肩を揺らし、そのまま素直に頷く。
その反応を見た瞬間、胸の奥が鈍く重くなった。

(……違う。そういうつもりじゃなかった……)

ただこの話題を終わらせたかっただけなのに、結果だけ見れば突き放した形になっている。
自席へ戻る彼女の背中を見送りながら、俺は静かにモニターへ視線を戻した。
画面の文字を追っているふりをしながら、頭の片隅では昨日の橋の上が何度も繰り返される。

仕事に集中しなければならないのに、意識だけが妙に落ち着かない。
昨日の失態より、さっき彼女に向けた冷たい声のほうが、後になって静かに胸に残った。
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