クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
#10【先輩視点】 逃げよう。そう決めた夜――彼女の忘れ物が危険すぎた件
十二月も押し迫った、年末の最終週。
窓の外はとっくに暗くなり、フロアに残っているのは残業をしている数名だけになっていた。
俺はモニターから目を離し、凝り固まった首を鳴らす。
プロジェクトが佳境を迎え、業務量が増えているのは事実だ。しかし、俺の疲労の半分以上は別のところに原因があった。
(……もしかして、彼女も俺を気にしているのではないか)
一度頭をもたげたその希望的観測は、俺の強固なはずの理性を内側から激しく揺さぶり続けていた。
……いや、自惚れるな。勘違いだ。彼女は誰に対しても明るくて優しく気遣いができるだけだ。
毎日そう自分に言い聞かせて壁を修復する作業だけで、脳のキャパシティは限界に達しつつあった。
深く息を吐き、デスクの上の資料をまとめようとした時だった。
端の方に、俺の殺風景なデスクには不釣り合いな、淡いピンク色の小さなポーチが置かれているのに気づいた。
(……さっきの打ち合わせの時、彼女が忘れていったのか)
手に取ろうとして、ふと動きが止まる。
ファスナーが少し開いていて、中から小さな付箋と、一本のリップクリームが転がり出ていたのだ。
窓の外はとっくに暗くなり、フロアに残っているのは残業をしている数名だけになっていた。
俺はモニターから目を離し、凝り固まった首を鳴らす。
プロジェクトが佳境を迎え、業務量が増えているのは事実だ。しかし、俺の疲労の半分以上は別のところに原因があった。
(……もしかして、彼女も俺を気にしているのではないか)
一度頭をもたげたその希望的観測は、俺の強固なはずの理性を内側から激しく揺さぶり続けていた。
……いや、自惚れるな。勘違いだ。彼女は誰に対しても明るくて優しく気遣いができるだけだ。
毎日そう自分に言い聞かせて壁を修復する作業だけで、脳のキャパシティは限界に達しつつあった。
深く息を吐き、デスクの上の資料をまとめようとした時だった。
端の方に、俺の殺風景なデスクには不釣り合いな、淡いピンク色の小さなポーチが置かれているのに気づいた。
(……さっきの打ち合わせの時、彼女が忘れていったのか)
手に取ろうとして、ふと動きが止まる。
ファスナーが少し開いていて、中から小さな付箋と、一本のリップクリームが転がり出ていたのだ。