クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
ほんのりと、甘い香りが漂う。
いつも彼女の近くで香る、あの清潔で柔らかな匂い。

(……こ、これは……)

俺の視線は、その小さなリップクリームに釘付けになった。
筒状の、何の変哲もないリップ。しかし俺の脳内は、その用途を極めて正確に、そして生々しく弾き出してしまう。

――これは、毎日彼女が何気なく使っているもの……

(……変態か、俺は………。一体何を考えているんだ……)

慌てて目を逸らすが、遅かった。
リップクリームという物理的な証拠を前に、これまで必死に抑え込んできた記憶の連鎖が、ダムが決壊したかのように溢れ出す。

俺の好みを考えてプレゼントを用意してくれたこと。
まっすぐに俺を見て「当たり前じゃないです」と言い切った、少し怒ったような顔。
指が触れた瞬間、微かに揺れたように見えたあの瞳。
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