【凛視点】クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
声が届くほどの距離ではない。
けれど、いつもはきつく結ばれている口元が柔らかくほぐれて、少しだけ目尻が下がっている。同僚が何か言うたびに、肩を揺らして陽気に笑い、ゆっくりとグラスを傾けている。
ネクタイは少し緩められていて、仕事中のあの隙のない冷徹な空気はどこにもない。
(……え)
私は思わず目を細め、箸を持ったまま固まってしまった。
あの、いつも感情の読めない横顔が。
あの、低くて静かな声の人が。
お酒が少し入っただけで、あんな風に笑うなんて。
「りんりん? どうしたの、ぼーっとして」
同期の声に、ハッと我に返った。
「あ、ごめん、なんでもない!」
慌てて視線を手元に戻す。顔が少し熱い。お酒のせいだ、絶対そうだ。
(……見すぎた。バレてたら恥ずかしい)
こっそり先輩の方をうかがうと、先輩はまだ同僚と話しながら、穏やかな表情をしていた。こちらには気づいていない。
(……良かった)
安堵しながら、ビールを一口飲んだ。
でも、頭の中には、さっき見た先輩の顔が貼り付いて離れない。
怖い人だと思っていた。
けれど、最近少しずつ見えてきた「不器用な優しさ」の奥に、あんなに無防備で、惹きつけられるような笑顔が隠れていたなんて。
(……ずるい)
気づいたら、そう思っていた。
なんで今まで知らなかったんだろう。というか、知ってしまったら——
(……どうしよう。なんか、また気になり始めてる)
私は静かに視線を外して、グラスを両手で包み込んだ。
頬の熱は、お酒のせいだけじゃない気がしてきた。
けれど、いつもはきつく結ばれている口元が柔らかくほぐれて、少しだけ目尻が下がっている。同僚が何か言うたびに、肩を揺らして陽気に笑い、ゆっくりとグラスを傾けている。
ネクタイは少し緩められていて、仕事中のあの隙のない冷徹な空気はどこにもない。
(……え)
私は思わず目を細め、箸を持ったまま固まってしまった。
あの、いつも感情の読めない横顔が。
あの、低くて静かな声の人が。
お酒が少し入っただけで、あんな風に笑うなんて。
「りんりん? どうしたの、ぼーっとして」
同期の声に、ハッと我に返った。
「あ、ごめん、なんでもない!」
慌てて視線を手元に戻す。顔が少し熱い。お酒のせいだ、絶対そうだ。
(……見すぎた。バレてたら恥ずかしい)
こっそり先輩の方をうかがうと、先輩はまだ同僚と話しながら、穏やかな表情をしていた。こちらには気づいていない。
(……良かった)
安堵しながら、ビールを一口飲んだ。
でも、頭の中には、さっき見た先輩の顔が貼り付いて離れない。
怖い人だと思っていた。
けれど、最近少しずつ見えてきた「不器用な優しさ」の奥に、あんなに無防備で、惹きつけられるような笑顔が隠れていたなんて。
(……ずるい)
気づいたら、そう思っていた。
なんで今まで知らなかったんだろう。というか、知ってしまったら——
(……どうしよう。なんか、また気になり始めてる)
私は静かに視線を外して、グラスを両手で包み込んだ。
頬の熱は、お酒のせいだけじゃない気がしてきた。