クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにふんわりと笑いかけてくる。

「休みは、ゆっくりできたか」
何事もなかったように話題を変える。そうしないと、今しがた自分が口にした呼び名を意識してしまいそうだった。
ただ、耳のあたりに集まる熱だけは誤魔化しきれず、俺は少しだけ視線を逸らした。

「はい! 実家で食べ過ぎて太っちゃいそうです。先輩は? ちゃんと休めました? 年末、ずっと遅くまで残ってたじゃないですか。だから、勝手にちょっと心配になっちゃって……あんまり無理しないでくださいね」

彼女の、心底心配そうな、真っ直ぐな言葉。
俺の体調を気遣ってくれるその優しさに、休みの間に勝手に膨らませていた余計な妄想が、少しだけ馬鹿らしく思えた。

「……ああ」

短く答え、彼女が頭を下げて去っていくのを見送りながら、俺は壁に手をついて息を整えた。

(……体制変更まで、少し気を引き締め直した方がいいかもしれない)

距離を取るつもりで立てたはずの計画は、新年初日からもう怪しくなっていた。
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